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2023年度の北総線動静
2023年度(2023年4月~2024年3月)の北総線においては,市川市との連携協定の締結や「ほくそう春まつり」等のイベント開催を通じた地域活性化への取組みに加え,区間列車の矢切発着化を盛り込んだダイヤ改正による利便性の向上,自動列車停止装置(ATS)等の設備更新による安全面の強化が図られるなど,安全安定輸送の実現と需要喚起に資する施策が展開された。本稿は当年度における北総線の主な動静を概要として紹介するものである。
全社の動静
経営企画
地域活性化に関する連携協定の締結
北総線沿線自治体のひとつである市川市と北総鉄道の間に地域活性化に関する連携協定「市川市と北総鉄道株式会社との地域活性化に関する協定」が3月15日付で締結された。連携協定は市川市北東部に位置する大町駅周辺地域の活性化を図ることを目的としたもので,大町駅の魅力向上や同駅周辺地域の経済及び観光の振興に両者が連携して取組むことを定めている。
協定の締結式は3月15日午後に大町駅構内で実施され,田中市川市長と持永北総鉄道社長の間で協定書が取交わされた。協定の締結にあわせて大町駅には同駅を最寄りとする市川市動植物園に関する装飾が施され,締結式に際して披露された。装飾は駅入口及びラチ内コンコースに施され,市川市動植物園の動物たちが北総線の電車に乗って北総線とその直通先各線の沿線に出かける様が市川市の名産や名所を表した「いちかわかるた」とともに描かれている。
また,協定締結の記念として北総鉄道と市川市のコラボキーホルダーが制作され,各駅で配布されているパンフレットを市川市動植物園に持参した小学生以下300名に配布された。北総線と沿線自治体との連携協定は,2021年度に締結された白井市に続き2例目である。
沿線活性化トレインの運行
北総線沿線自治体と北総鉄道から構成される北総線沿線活性化協議会(活性協)における沿線活性化への取組みとして,昨年度に引続き広告貸切列車「北総線沿線活性化トレイン」が当年度も11月17日から3月末までの約4ヶ月半にわたり運行された。
北総線沿線活性化トレインは北総線沿線の魅力発信や知名度向上といった沿線活性化を目的として昨年度より運行されている広告貸切列車で,当年度は9128編成を使用車両として運行された。当年度は車体外部への広告掲出こそ省略されたものの,車両正面には長方形のヘッドマークが掲出され,客室内には鎌ケ谷市,白井市,印西市,千葉県,活性協,北総鉄道の広告が掲出された。客室内の広告割当は昨年度と同様で,鎌ケ谷市が2両,白井市及び印西市が各3両,千葉県は各車両北寄の車端部,活性協及び北総鉄道は側窓に割当てられた。
運行開始に際しては,運行初日となる11月17日に印西牧の原駅構内で出発式が行われた。式典には活性協を構成する千葉県や沿線各市の長,北総鉄道の室谷会長,持永社長が出席し,沿線活性化トレインの披露と初列車となる印西牧の原発新鎌ヶ谷行の臨時列車の見送りが行われた。
代表取締役の異動
北総鉄道株式会社第51期定時株主総会後の取締役会において同社代表取締役の異動が決定し,6月23日付で室谷代表取締役社長が代表取締役会長に昇任,後任の第14代社長に持永代表取締役社長が就任した。
運輸部門の動静
輸送関係
No.119ダイヤ改正の実施
直通運転先の各事業者に合わせたダイヤ改正が11月25日付で実施され,区間列車の矢切発着化などを盛り込んだNo.119ダイヤが同日より施行された。
本件ダイヤ改正では,昨年度までに新設された新鎌ヶ谷発着の区間列車のうち平日2往復と土休日6往復が矢切発着に延長され,列車増発による利便性向上の効果が北総Ⅱ期線にも拡大した。区間列車の矢切発着化は千葉ニュータウンと北総Ⅱ期線及び他社線沿線との間で通勤通学利用や行楽利用の多い時間帯で行われ,これらの時間帯において矢切までの普通列車の時間5~6本運転が実現した。
直通先の他社線においては,京浜急行線内の種別名称見直しにより,2010年5月から運転されてきたエ急行列車が急行列車に改称された。京浜急行線内の種別改称に伴う対応は当年度末時点では最小限の実施に留まり,駅及び車両に掲出されている路線図については一部の駅のみ「エ急行」を「急行」にステッカーで修正された。また,北総所属車両においては,車内案内表示器の表示生成に要する運行データが京浜急行線内の急行運転に対応しておらず,本件改正後も引続き「エ急行」設定で運転されている(註:2024年4月以降,急行運転対応の運行データに順次改修されている)。
乗務員関係
タブレット端末を使用した自動音声による車内放送の導入
車掌用タブレット端末を使用した自動音声による車内放送が2月16日付で北総線各列車に導入された。導入について北総鉄道は,「放送を良質で聞きやすいものと」するとともに,「訪日外国人のお客様が,列車をより一層快適にご利用いただけるよう,外国語放送を幅広く提供」し「訪日外国人のお客様へのサービス向上」を図るとしている。
車掌用タブレット端末を使用した車内放送は,汎用のタブレット端末(iPad)を放送回路に接続し,タブレット端末に搭載された専用アプリケーション上で駅到着時や異常時の案内放送を車掌の操作により再生するものである。専用の自動放送装置を必要とせず,導入費用を抑制しながら案内放送の多言語化や品質向上を図ることができる利点があり,直通先各線においても京浜急行電鉄及び京成電鉄で導入実績を有する。北総鉄道では,2018年4月よりICレコーダを使用して異常時や乗換案内等の一部放送の多言語化が図られてきたが,今回のタブレット端末の導入によって車内放送の大半が自動音声化された。
放送については,停車駅案内放送は日英の2ヶ国語,アクセス特急列車の乗換案内放送や異常時放送は日英中韓の4ヶ国語で収録されている。このうち日本語は中矢由紀氏,英語はダウィーナ・ロビンソン氏によるものと公表されている。
タブレット端末による車内放送の導入に際しては,2月1日以降の北総線各列車で乗務員によるタブレット端末の試使用が行われた。試使用期間中においては,タブレット端末を放送回路に接続せず,端末単体で放送時機や操作感の確認及び検証が実施されていた。なお,タブレット端末には従来のICレコーダに収録されていた異常時放送や乗換案内放送も含まれている(ただしICレコーダとタブレット端末で放送文は異なる)ことから,タブレット端末への移行に伴いICレコーダによる車内放送は廃止されている。
営業関係
カスタマーセンターの開設
北総線における窓口業務の拠点として「カスタマーセンター」が12月1日付で開設された。これまで「お忘れものセンター」で受付けていた遺失物窓口のほか,駅や本社主管課等で受付けていた鉄道利用に関する各種問合せ窓口が統一,総合窓口化されたものである。
カスタマーセンターの開設に際しては,新鎌ヶ谷の駅本屋に隣接して建屋が新設された。カスタマーセンターの建屋は新鎌ヶ谷駅と認定保育園「鎌ケ谷ピコレール保育園」に挟まれた鎌ヶ谷高架橋下に立地しており,認定保育園の利用者向けに開放されていた旧西口通路を共用する格好で駅との間にアクセス通路が設けられた。
従来の遺失物窓口として2004年4月から運営されてきたお忘れものセンターについては,カスタマーセンターの開設に伴い11月30日付で廃止された。廃止前のお忘れものセンターは矢切の旧定期券発売所跡地を転用して2012年度に移転・開設されたもので,北総線の遺失物窓口はお忘れものセンターの矢切移転以来,約11年ぶりに新鎌ヶ谷に戻った。
東松戸駅におけるエレベータ「優先レーン」の取組み
バリアフリー設備であるエレベータを必要とする利用者への優先的な利用を呼びかけるソフト的な取組みとして,東松戸のエレベータに「まごころ優先レーン」が設置された。
まごころ優先レーンが設置されたのは,東松戸の上りホームと3Fコンコースを結ぶエレベータ1基である。東松戸は4F部分にホームを有する高架駅で,当該のエレベータはバリアフリールートの一部として設備されている。ところが,東松戸はJR武蔵野線との結節点でもあり,キャリーケース等を持った空港利用者の多くがエレベータを利用して移動するため,車いす利用者や高齢者など本来エレベータを必要とする利用者に対する配慮が求められる状況にあった。今回,エレベータを必要とする利用者に対する待機列「まごころ優先レーン」と一般利用者の待機列を区分することで,ソフト的にバリアフリーへの配慮が促されている。
広域路線図の撤去
北総線と周辺の鉄道路線網の案内に用いられてきた広域路線図が当年度末に撤去された。広域路線図は北総線開業当初より駅構内に設備され,新線開業や駅名改称等にあわせて適宜見直しが重ねられてきたが,各駅から撤去されるに至った。
撤去前の広域路線図は2010年度に作成されたもので,駅名や路線名の改称にあわせて表記の修正が重ねられてきた。広域路線図は掲出枠を残して撤去され,掲出枠のみ残置された。また,撤去された広域路線図は3月9日に新鎌ヶ谷駅高架下で開催された廃品即売会で販売されている。
回数乗車券の発売終了に伴う運賃制度の改正
北総線の開業以来広く利用されてきた回数乗車券が2月29日をもって発売終了となり,これに伴う旅客営業規則の改正が3月1日付で実施された。
発売終了した回数乗車券は,改正前の旅客営業規則第15条及び第31条に規定されていた普通回数乗車券,昼間割引回数乗車券,土休日割引回数乗車券の各回数乗車券である。通学用割引普通回数乗車券のほか,条件を満たした身体障がい及び知的障がい者に対する割引回数乗車券については発売が継続され,改正後の旅客営業規則においては「特殊割引乗車券」に区分が改められた。また,京成電鉄において成田空港線に適用される旅客営業規則も改正され,乗継旅客運輸規則に則って発売される同線連絡の普通回数乗車券についても同様に発売終了となった。
回数乗車券の発売終了に際しては,自動券売機は回数乗車券を発売制限した状態に設定され,正面パネル等の表記はテープ等で抹消された。駅の営業案内も回数乗車券の表記を抹消した掲示に変更されている。一方で,北総鉄道とは無関係に沿線で運営されてきた「バラ売り回数券」自動販売機については,回数乗車券の発売終了にあわせて自動販売機の営業も終了する旨が当初告知されていたが,発売最終日までに確保した在庫で当面の間は営業を継続する方針に変更された。
北総線における回数乗車券は,1978年度の開業にあわせて本邦初の磁気化単葉11券片式の乗車券として導入された。当初は西白井駅の定期券発売所で発売されるのみだったが,各駅発売化や有効期間の延長など利便性の向上が重ねられるとともに,昼間割引回数乗車券や土休日割引回数乗車券の導入,割引率の拡大が図られ,度重なる運賃改定による値上げ感の緩和にも役立てられてきた。他の鉄道事業者で回数乗車券の廃止が相次ぐ中で,北総鉄道においても「交通系ICカードの普及等により回数乗車券をご利用されるお客様が減少している」として,開業以来45年にわたり発売されてきた回数乗車券の見直しに至った。
企画乗車券・記念乗車券の発売
多客期に設定されている1日乗車券については,当年度も年4回の発売期間が設定された。それぞれの設定期間は,春季において3月25日から5月28日,夏季において7月22日から8月27日,秋季において9月30日から11月26日,冬季において12月23日から1月21日で,各駅窓口及びスマートフォンアプリ・RYDE PASSを通じて発売された。さらに当年度は,従来から発売されていた京成線の企画乗車券「下町めぐりきっぷ」と北総線の1日乗車券を統合し,北総線に加えて京成線東京都内区間も対象とした1日乗車券「北総・下町めぐりきっぷ」が秋季より新たに設定された。
また,当年度の5月5日は「令和5年5月5日」として5が並ぶことから,5月5日に50円で乗り放題となる小児用の1日乗車券「こどもの日 GOGOGOきっぷ」が5月3日より555枚限定で発売された。
4月30日より発売された「ほくそう春まつり号運転記念乗車券」は,5年ぶりのほくそう春まつり号運転に伴う記念乗車券だった。1部500円で,ほくそう春まつり会場及び北総線各駅で500部が発売された。
沿線で開催された大型ゴルフトーナメント「ZOZO CHAMPIONSHIP 2023」については,開催初日の10月19日から「ZOZO CHAMPIONSHIP 2023 開催記念乗車券」が1,000部限定で発売された。本件記念乗車券にはゴルゴ13とコラボレーションした図柄が採用されたが,昨年度の記念乗車券と異なり内容は各駅共通とされた。発売箇所は北総線各駅で,発売額は500円だった。
当年度末には,北総Ⅰ期線北初富・小室間が開業45周年,千葉ニュータウン中央駅が開業40周年をそれぞれ迎えることから,記念乗車券「北総1期線開業45周年&千葉ニュータウン中央駅開業40周年記念硬券セット」が3月9日より1,000部限定で発売された。発売箇所は北総線各駅で,発売額は1,000円だった。
このほか,当年度においては千葉県誕生150周年を記念した乗車券も発売された。千葉県民の日である6月15日から北総線各駅で発売された記念乗車券「千葉県誕生150周年記念 鉄道5社共通1日乗車券」は,京成電鉄,新京成電鉄,小湊鉄道,芝山鉄道との連携による記念乗車券で,発売額は1,500円だった。また,千葉県とJR東日本千葉支社の連携による企画乗車券「サンキュー♥ちばフリーパス」及び「サンキュー♥ちばフリー乗車券」が発売され,両乗車券のフリーエリアに北総線矢切・印旛日本医大間も設定された。両乗車券は,秋季において9月1日から10月30日,春季において1月4日から2月28日の間で,JR東日本の主要駅を通じて発売された。
沿線イベントの開催
当年度におけるイベントの開催については,社会的情勢や沿線環境の変化等により中断していた定例イベントが復活するなど,年間を通して盛況な開催状況であった。
沿線開発の進行に伴い2018年度の開催を最後に中断していた「ほくそう春まつり」は,当年度に5年ぶりの復活開催を果たした。当年度のほくそう春まつりは,昨年度に実施されたほくそう秋まつりと同様に千葉ニュータウン中央駅を最寄りとするイオンモール千葉ニュータウン提携駐車場を会場として,4月30日に開催された。印西市,白井市,ベイエフエム,北総鉄道からなる実行委員会形式での開催で,このうち白井市では北総線とのコラボ企画として西白井駅及び白井駅をモチーフとしたタンブラーが発売された。また,ほくそう春まつりの開催に際しては,臨時列車「ほくそう春まつり号」の設定も復活し,当年度は京成線八千代台駅から京成高砂駅経由で千葉ニュータウン中央駅までの特急列車として,9201編成を使用して運転された。
新型コロナウイルスの流行により2019年度を最後に中断していた夏の「矢切ビールまつり」も当年度より復活した。地域活性化を目的として1995年8月に始まった矢切ビールまつりは,現在では下矢切商店会を主体とする実行委員会形式で開催されている。当年度は8月9日と10日に開催された。
恒例のウォーキングイベント「北総ウォーク」は,当年度も日時を指定しないフリー参加方式で第49回から第51回の3回が開催された。5月12日から6月29日まで開催された第49回は1999年10月に開催された第1回のリバイバル企画で,印西牧の原駅から小林牧場,本埜公民館経由で印西牧の原駅に戻る約12.5kmのコースだった。秋の第50回は10月13日から12月1日まで開催され,千葉ニュータウン中央駅から結縁寺,東の原公園経由で印旛日本医大駅に至る約12.3kmのコースだった。春の第51回は3月19日から5月12日までに開催時期が繰上がり,小室駅から小室公園,宗像神社経由で千葉ニュータウン中央駅に至る約9kmのコースが設定された。
他社と共催するウォーキングイベントについては,昨年度に引続き東武鉄道と「第2回北総・東武合同ウォークラリー」が2月23日に開催された。コースは昨年度の逆で,東武野田線高柳駅から海上自衛隊下総航空基地を経由して西白井駅に至る約8.5kmのコースだった。
鎌ケ谷市に二軍の本拠地を置くプロ野球チーム・北海道日本ハムファイターズのイースタン・リーグ公式戦スポンサードゲーム「北総鉄道DAY」は,昨年度はあいにく中止となったものの,当年度は予定通り5月14日に鎌ケ谷スタジアムで開催された。なお,始球式に向けて室谷社長(当時)が本社駐車場でキャッチボールの練習に励む様子が北総鉄道のX(Twitter)で紹介されている。
このほか,沿線の飲食店を巡るスタンプラリー「北総グルメラリー」の第2弾が3月25日から5月26日まで開催されている。北総グルメラリーは2021年度に初開催されたスタンプラリー形式のイベントで,沿線の飲食店であらかじめ指定された限定メニューを飲食することでスタンプの押印を受けることができる。当年度は,新たに開店した松屋新鎌ヶ谷店,升屋新鎌ヶ谷店を加えた11店舗が対象とされ,3店舗の押印で絵皿と交換可能である。なお,当年度もスタンプは北総線の歴代車両を絵柄として,各店舗によって異なる絵柄が割当てられている。
有料イベントの開催
昨年度において50周年プロジェクトを通じて実施されてきた有料イベントやグッズ販売については,当年度よりSNSやウェブサイトを活用したプラットフォームが構築され,積極的かつ継続的な営業体制が確立した。SNS・X(Twitter)上での情報発信については,これまで運行情報や営業情報を2013年度に開設されたアカウント「北総鉄道運行情報プラス」一つで発信する体制だったが,4月28日付で営業情報発信用のアカウント「ほくそうプラス」が開設された。また,有料イベントやグッズ販売のプラットフォームとなるウェブサイト「ディスカバリーほくそう」が6月27日付で開設された。
有料イベントについては,7月29日に京成トラベルサービスの主催する車両撮影会「北総鉄道夜間撮影会ツアー」が開催されたのを皮切りに,9月30日と1月27日にはビール列車の運転,3月20日には北総Ⅰ期線開業45周年・千葉ニュータウン中央駅開業40周年記念イベントが開催された。
夜間撮影会ツアーは,矢切から臨時列車で車両基地に移動し,日没から夜間にかけて7300形,9800形,9100形の3編成を撮影,新鎌ヶ谷で解散といった内容で,夕食として弁当も用意された。
ビール列車については,矢切・印旛日本医大間を2時間程度で往復する臨時列車の車内でビール等が飲み放題となる内容で,各回ともにヘッドマークを掲出した7500形が使用された。ビール等の飲料提供はサッポロビールの協力によるもので,開催に際して北総鉄道による飲食店営業が所轄の印旛保健所により8月23日付で許可されている。また,「新春ほくそうビール列車」と称された1月27日開催回には,船橋市を拠点とするご当地アイドルグループ「船橋ひまわり娘」も参加し,往路の小室停車中にはミニライブも実施された。
北総Ⅰ期線開業45周年・千葉ニュータウン中央駅開業40周年記念イベントについては,新鎌ヶ谷から臨時列車で車両基地に移動し,ヘッドマークを掲出した7500形,9800形の撮影や「船橋ひまわり娘」のミニライブを鑑賞,印西牧の原で解散といった内容だった。新鎌ヶ谷から車両基地までの移動に際しては,北総Ⅱ期線開業前に車掌を務めていた社員による北初富発小室行の車内放送や,「幻の駅」として紹介された小室・千葉ニュータウン中央間の未成駅である谷田駅予定地での停車,谷田駅予定地への谷田の駅名標の設置など,こだわりの演出を楽しむことができた。
このほか,印西市のふるさと納税に印旛車両基地での車両運転体験が12月より追加された。運転体験は12万円以上を寄付した18歳以上を対象として,昨年度の有料イベントと同様の内容で3月16日に開催された。ふるさと納税への北総鉄道の協力は,2021年度の白井市におけるガバメントクラウドファンディングに続き2例目である。なお,18歳未満も参加可能な運転体験イベントとして,9100形を使用した「C-Flyerを運転しよう!親子運転体験」が10月15日に開催されている。
グッズの発売
当年度においては,子育て世代をターゲットとした子ども向けグッズのほか,鉄道むすめ「白井まきの」を起用した趣味者向けグッズなど,幅広いグッズ展開が行われた。
7500形を模したパスケースを作る手縫いキット「ソーイングパスでん」は9月より1,000円で発売された。同じく9月には7000形を模した文具「7000形電車型ホッチキス」が1,000円,翌10月には7500形と9100形を模した「電車型ボディバッグ」2種類が各1,500円で発売された。
鉄道むすめ「白井まきの」を起用したグッズとしては,4月より「クリアファイル(Ver.2)」が400円,「ミニハンドタオル」が500円,「アクリルマルチスタンド」が800円でそれぞれ発売された。年度末には印旛日本医大駅で立哨している姿の「クリアファイル(Ver.3)」400円も発売されており,鉄道趣味者向けグッズに対する鉄道むすめ「白井まきの」の活用が進んだ。
当年度末の北総Ⅰ期線開業45周年及び千葉ニュータウン中央駅開業40周年に関する記念グッズとしては,北初富・千葉ニュータウン中央間の5駅に谷田を加えた「記念駅名キーホルダー」6種類が新鎌ヶ谷駅のカプセルトイ販売機で3月9日より400円で発売された。さらにイベント限定商品として,千葉ニュータウン中央駅開業40周年の記念マークと2000形をあしらった「記念ゴルフボール」が3月9日より1スリーブ3個入1,800円で,丸源飲料工業のトーキョーサイダーに記念ラベル2種類をあしらった「北総鉄道周年記念サイダー」が3月20日より各350円でそれぞれ発売された。
ウェブサイト「ディスカバリーほくそう」の開設に際しては,昨年度の制服更新により回収された旧制服から外されたボタンが販売された。旧制服のボタンは北総鉄道時代と北総開発鉄道時代で彫刻文字が異なることから各仕様のセットが販売され,このうち「TETSUDOUバージョン」とされた北総鉄道時代のボタンセットには,会社創立50周年に際して2022年1月から2023年3月まで社員が着用していた記念エンブレムのバッジが付属した。「KAIHATSUバージョン」とされた北総開発鉄道時代のボタンセットには,会社創立50周年に際して北総鉄道社員の名刺に貼られていた記念エンブレムのシールと同一品が台紙に貼られていた。
このほか,沿線の市川市で創業,現在も松戸市に工場を有する山崎製パンとのコラボレーション企画として,9月26日から11月末までの期間限定でバウムクーヘンが発売された。バウムクーヘンは1箱5個入りで,7500形や駅名標をあしらった個包装や,7500形をモチーフとした梱包箱が特徴だった。北総線沿線を含むファミリーマート等の店舗で発売され,1箱540円だった。
鉄道むすめ「白井まきの」社員の異動
昨年度にデビューした鉄道むすめ「白井まきの」社員については,2022年12月に白井駅の駅務掛として発令を受け,白井駅ラチ内コンコースに等身大パネル1体が設置されてきたところであるが,当年度において印西牧の原駅に異動の発令を受けた。
白井まきの社員への人事発令は3月20日付で行われ,同日付で印西牧の原駅の駅務掛となった。辞令交付の様子は昨年度同様に北総鉄道のX(Twitter)で公開されている。なお,発令に伴い,白井駅に設置されていた等身大パネルは印西牧の原駅ラチ内コンコースの海側待合スペース付近に移設された。
横断幕・装飾の展開
当年度も各駅では季節にちなんだ様々な装飾が展開された。鯉のぼりやクリスマスツリー等の大規模な装飾を展開した駅や,受験シーズンや新年度にあわせて応援メッセージを掲出した駅など,各駅で工夫をこらした取組みを数多く見ることができた。千葉ニュータウン中央駅では,交通安全啓発のために作られたキャラクター看板「とび太」をモチーフに北総鉄道の制服を着用させるなどしたオリジナルの看板が作られるなど,話題性のある装飾も見られた。
また,1月に松飛台駅を最寄りとする大相撲・佐渡ヶ嶽部屋所属の力士・琴ノ若が大関に昇進したことから,松飛台駅に横断幕が設置された。琴ノ若の大関昇進を祝う横断幕は同駅上りホームの1箇所に2月16日より掲出されている。
自動販売機の展開
各駅に設置されている飲料等の自動販売機については,昨年度に引続き話題の創出につながる自動販売機が積極的に導入され,鉄道むすめ「白井まきの」をあしらった電車風自動販売機や,訪日外国人観光客をターゲットとしたラッピング自動販売機などが設置された。
電車風自動販売機については,昨年度までに北総鉄道本社前及び西白井駅コンコースに計3台が設置されていたところであるが,当年度においては鉄道むすめ「白井まきの」のイラストを正面及び側面に加えた意匠の自動販売機3台が新たに導入された。当年度の設置駅には,「白井まきの」の名前の由来となった白井と印西牧の原の両駅が選ばれた。このうち白井に設置された自動販売機は,ラチ外コンコースに7300形7318編成を模したネオス管理のアサヒ専用機,ホーム上に7500形7503編成を模した伊藤園管理の専用機の計2台で,印西牧の原には上りホーム上に9000形9018編成を模したネオス管理のアサヒ専用機1台が設置された。なお,印西牧の原については当初C階段下の詰所横に設置されていたが,後に待合室前に移設された。
ラッピング自動販売機は前述の「白井まきの」以外にも展開され,東松戸には訪日外国人観光客をターゲットとした歌舞伎風ラッピングの自動販売機1台が新たに設置された。歌舞伎風ラッピング自動販売機はコカ・コーラ管理の専用機で,このほかにも茶畑のラッピングが施された伊藤園管理の専用機1台も東松戸に新設されている。このほか,ヤクルトの人気商品「Y1000」の専用機1台が新鎌ヶ谷のラチ外コンコースに新設された。
ヘッドマーク電車の運行
当年度においては,広告貸切列車である「沿線活性化トレイン」や「京成グループ花火ナイター号」のほか,年度末の北総Ⅰ期線開業45周年及び千葉ニュータウン中央駅開業40周年を記念したヘッドマーク電車が運行された。
広告貸切列車へのヘッドマーク掲出については,6月23日から7月22日まで7501編成を使用して運行された「京成グループ花火ナイター号」のほか,11月17日から年度末まで9128編成を使用して運行された「北総線沿線活性化トレイン」の2本が運行された。9100形へのヘッドマーク掲出は,2012年の「ほくそう春まつり号」以来である。
年度末の北総Ⅰ期線開業45周年及び千葉ニュータウン中央駅開業40周年に際しては,それぞれの記念エンブレムを掲出したヘッドマーク電車2本が運行された。掲出開始日はいずれも対象区間の開業日に設定されており,北総Ⅰ期線開業45周年については3月9日から7503編成に,千葉ニュータウン中央駅開業40周年については3月19日から9808編成にそれぞれ掲出され,2024年6月末までの運行予定とされている。
広告貸切列車の運行
当年度も昨年度同様「沿線活性化トレイン」のほか,「京成グループ花火ナイター号」や沿線ゴルフトーナメントの広告貸切列車が運行された。
10月19日から22日にかけて開催された沿線ゴルフトーナメント「ZOZO CHAMPIONSHIP 2023」に際しては,記念乗車券の発売に加え,7318編成を使用した広告貸切列車が9月29日より10月22日までの約1ヶ月間運行された。車内には「これがゴルフだ。」をキャッチコピーとした大会告知ポスターをはじめ,大会告知ポスターのパロディで「これが北総線だ。」をキャッチコピーとした大会来場者への北総線利用促進ポスター,漫画「ゴルゴ13」とのコラボポスターがそれぞれ掲出された。恒例の「京成グループ花火ナイター号」については,当年度も6月23日から7月22日の期間で7501編成を使用して運行された。
交通広告の募集
各駅に設定されている交通広告の広告枠については,2021年度に本社営業課による広告募集掲示が空き広告枠の一部に対して掲出されるなど,かねてより広告枠の販売が続けられてきたところである。当年度においては,電気掲示器やポスター枠など多様な広告枠に対して募集掲示が追加され,交通広告募集に対する新たな取組みが行われた。
当年度に掲出された募集掲示については,広告枠全面に新たな募集広告を掲示した2021年度の事例と異なり,募集要項を簡潔に示した用紙により掲示費用の抑制が図られている。電気掲示器等の募集要項には各広告枠に設定されている管理番号が明記されているほか,ポスター掲示に関する募集要項については当該駅の掲出料金表が示されている。
各種外部サービスの導入
北総線各駅における外部サービスの導入については,当年度はスマートフォン充電用バッテリーのレンタルサービス「ChargeSPOT」を筆頭に新規サービスが複数展開された一方で,コインロッカーの設置見直しなども実施された。
新規導入サービスとしては,株式会社INFORICHの運営するスマートフォンの充電用バッテリーのレンタルシェアリングサービス「ChargeSPOT」が4月26日より各駅に導入されたほか,株式会社エクステックによる自動外貨両替機が3月27日より東松戸駅ラチ外コンコースに設置された。
さらに,OpenStreet 株式会社の展開するシェアサイクルプラットフォーム「HELLO CYCLING」に参画している関東鉄道の「関鉄Pedal」のサイクルポートが,矢切,秋山,東松戸ほか各駅の駐輪場等に導入された。当該サービスについては,同じく参画企業のシナネンモビリティ+株式会社が展開する「ダイチャリ」のサイクルポートとしても導入が進められていて,北国分や大町などは同社によってサイクルポートが整備されている。
このほか,東松戸ラチ内コンコースのカプセルトイコーナーには,ポケモンカードを発売する自動販売機1台が新設された。
既導入サービスについては,セブン銀行のATMが新たに松飛台駅ラチ外コンコースに設置されたほか,新柴又,北国分,新鎌ヶ谷の各駅ではコインロッカーの設置数縮小及び撤去が行われた。
未利用空間の利活用
鉄道施設の未利用空間を活用したテナント誘致等の状況については,高架下に食品スーパーや飲食店等が新たに出店するなど,当年度も未利用空間の利活用拡大が図られた。
昨年度から建設工事が進められてきた東松戸駅終点方の紙敷高架橋下の店舗については,コミュニティー京成のフランチャイジー店舗として食品スーパー「業務スーパー東松戸店」が5月18日付で開店した。また,7月12日付で開店した印旛日本医大駅ラチ外コンコースにコンビニエンスストア「ファミリーマート印旛日本医大駅店」もコミュニティー京成の運営店舗である。ファミリーマート印旛日本医大駅店の出店に際しては,当年度初より印旛日本医大駅構内で店舗建設に伴う倉庫移転が行われ,倉庫が山側の券売機室横から海側の出入口付近に移設された。
秋山第2トンネル上の用地は昨年度に引続き利活用が進み,9月22日付でレンタル収納「イナバボックス松戸秋山店」が開店したほか,北総鉄道による有料駐車場として秋山第2駐車場が開設された。新鎌ヶ谷駅終点方の鎌ヶ谷高架橋下には,居酒屋「はなの舞新鎌ヶ谷店」に隣接する同一運営の居酒屋「升屋新鎌ヶ谷店」が2月14日付で開店した。
既設店舗については,新柴又駅下の食品スーパー「エネルギースーパーたじま新柴又店」が4月13日付で「ラコマート新柴又店」に改称された。いずれも大黒流通チェーンの食品スーパーブランドであり,大黒流通チェーンが買収した「たじま」ブランドから「ラコマート」ブランドへの変更である。
鎌ヶ谷高架橋下の新鎌ヶ谷駅連絡通路に出店していた飲食店「東京チカラめし新鎌ヶ谷店」は11月4日付で閉店し,2012年度以来の営業に幕を閉じた。東京チカラめしの閉店後,当該店舗には飲食店「松屋新鎌ヶ谷店」が3月10日付で出店した。
このほか,当年度においては北総鉄道の所有する未利用地に対して賃貸借募集の看板が建植された。看板には用地面積や土地利用条件が明記されていて,交通広告同様に本社営業課を窓口とした募集活動が行われている。
技術部門の動静
施設関係
エスカレータの更新
矢切のエスカレータ1基が3月27日付で更新された。エレベータについては,1995年度に供用開始された千葉ニュータウン中央駅のエレベータ1基が昨年度に更新されたところであるが,エスカレータについても1990年度の北総Ⅱ期線開業に際して供用開始された設備が多数存在しており,計画耐用年数を考慮した更新工事が始まった。今回の更新工事は,北総線各駅のエスカレータ更新としては初の事例である。
今回更新されたエスカレータは,矢切駅地上出入口(駅ビル予定地側)と地下改札階コンコース間を連絡するもので,1990年度の駅開業にあわせて設備された。2022年4月に実施された早朝深夜の運転見直しの対象にはなっておらず,初電から終電まで終日運用されてきた。
更新工事では,内側板やデッキカバーなど既設エスカレータの部品を再利用することで,昨年度のエレベータ更新と同様に工期短縮と費用の縮減が図られた。一方で,駆動機以外にも踏板や階段の更新や,2021年度に小室及び印旛日本医大で実施された自動運転への対応として人感センサを備えたポールが新設されるなど,安全面や機能面の向上が図られている。工事期間は3月12日から26日までの2週間だった。
五輪関連施設使用木材を用いたベンチの導入
千葉県産木材を使用した駅設備の整備については,東京五輪の関連施設で使用されていた同木材を再利用したベンチが昨年度に引続き導入された。当年度においては,矢切,東松戸,新鎌ヶ谷の3駅に各2脚が,いずれも昨年度に導入された秋山と同様に2脚を背合わせに連結した形状で設置された。
再生木材によるベンチは昨年度と同時期の2月以降に設置されたが,当年度分の設置に際してプレスリリースはなかった。各駅における設置箇所は,矢切がラチ内コンコース(発車標下),東松戸がラチ外コンコース(自動券売機前),新鎌ヶ谷がラチ内コンコース(旧本屋口出場側改札付近)である。各駅とも既設ベンチの撤去や移設は生じていない。
なお,昨年度に本件施策によってベンチが新設された小室については,新設ベンチが上りホーム側コンコースに移設され,同箇所にあった既設ベンチ2脚が代替された。
駅テラゾータイルの張替
北総線各駅のコンコースに使用されているテラゾータイルについては,雨天時に滑りにくい加工を施す等の安全対策が実施されてきたところであるが,経年による劣化や汚損が見られることから,タイルの張替が進められている。当年度は北国分で昨年度に引続き張替が行われた。
既設タイルに滑り止め加工を実施していた北国分においては,経年による加工の剥がれと表面の汚損が進行しており,昨年度にはラチ外コンコースの大部分でタイルの張替が実施されていた。当年度はラチ内を施工範囲として張替が進められたが,起点方や階段周囲等は既設タイルのままである。
鎌ヶ谷高架橋の防音工改良
新鎌ヶ谷・西白井間の鎌ヶ谷高架橋においては,成田スカイアクセス開業に際して市街地区間の防音対策工事が実施され,1978年度の北総Ⅰ期区間開業時に構築されたコンクリートブロックによる高欄に対して石膏ボードを用いた「スムースボード工法」での嵩上げが図られてきた。一方で,高架橋終点方の一部では高欄の改良が未実施であり,経年による老朽化も進行していたが,当年度において未改良区間の高欄を防音板に改良する工事が実施された。
工事は11月頃から3月末まで実施され,コンクリートブロック造の既設高欄を解体した後にH鋼を打設,防音板が設置された。新設高欄の高さは既設高欄と同程度で,先のスムースボード工法による改良区間のように嵩上げは行われていない。なお,同一構造の高欄は北総Ⅰ期区間の神崎川,二重川橋りょうのほか,公団Ⅰ期区間の小室高架橋にも存在するが,当年度時点では他箇所への波及はしていない。
西白井保守基地旧検査庫の修繕
西白井駅に隣接する保守拠点である西白井保守基地については,北総線開業に際して1978年度に整備され,2000年度に廃止された旧西白井車両基地の設備を一部使用しているが,このうち保守用車の収容に活用されている旧検査庫建屋の修繕が行われた。
旧検査庫は,車両に対し日常的な列車検査等を実施するために設備された延長約80mの建屋で,このうち終点方の約40mは1978年度の車両基地開設時に設備されて以来,約45年にわたり使用されてきた。今回の工事では,検査庫終点方の約20mを対象として,外壁や天井の波形スレート板を全面的に取替,換気塔の撤去,鉄部についても再塗装が行われるなど,供用開始以来の大規模な修繕が実施された。
車両基地台検庫への北総ロゴマーク新設
車両基地の終点方に位置する台検庫については,2000年度の基地開設以来,倉の上部に「安全第一」のみ掲示されてきたが,当年度4月に北総ロゴマークが新たに設置された。車両基地は隣接する国道464号及び北総線から視認可能だが,車両基地としての性質から積極的に北総線の施設として明示されてこなかった。今回のロゴマーク新設によって敷地外からも北総線の施設であることが明確に認識できるようになった。
小室駅下りホーム旧旅客トイレの撤去
小室駅下りホーム上に設備されていた旧旅客トイレについて,当年度に洗面台や便器等の残存設備の撤去が実施された。小室駅の旧旅客トイレは,成田スカイアクセス開業に伴う駅舎増設に際して2008年度に廃止されたが,便器や洗面台等の大半の設備は廃止後も残置されていた。
伸縮継目箇所のラダーマクラギ化
伸縮継目箇所における軌道狂い対策として実施されてきたラダーマクラギ化については,昨年度に引続き印西牧の原構内起点方の施工が行われた。当年度は京成高砂起点28km付近の下り線でバラスト・ラダー軌道への改良が実施されている。
ロングレール更換の実施
当年度もリフレッシュ工事の一環としてロングレール更換が進められた。当年度の主な施工箇所は,昨年度に引続き新鎌ヶ谷・西白井間で,粟野山トンネル付近から西白井駅起点方までのロングレールが順次更換されている。
電気関係
小室き電開閉所の廃止
北総鉄道と千葉ニュータウン鉄道の会社間境界である小室駅終点方に設備されていた小室き電開閉所が3月をもって廃止された。
小室き電開閉所は,旧住都公団鉄道の北総開発鉄道乗入れに伴い,会社間における事故時の区分点や融通電力量の計測を目的として1983年度に供用開始された施設である。しかしながら,一体的な施設及び運行管理がなされるようになった今日の北総線において,当該の会社間境界での区分や融通電力量の計測はもはや不要であったと推察される。奇しくも公団線開業40年のタイミングで北総線と公団線を分かつ施設が役目を終えた。廃止後はケーブルや電車線区分標の撤去が行われ,小室高架橋の高架下にあった盤についても年度跨ぎで撤去準備が進められている。
照明設備の更新(LED化)
北総線の鉄道施設で使用されてきた蛍光灯や水銀灯等の従来型照明については,かねてよりLED照明への更新が図られてきたところであるが,当年度においては印西牧の原,印旛日本医大の両駅コンコース及び車両基地検修庫のLED化が実施された。
2019年度から照明のLED化が実施されてきた印西牧の原については,従来型照明の残存していたホーム階段付近のダウンライト等についてLED化が図られた。水銀灯が使用されていたダウンライトの大半は壁面設置の直管形LED照明に代替されている。
印旛日本医大は当年度よりLED化に着手していて,当年度はドーム屋根部分を含むコンコース照明が更新された。印西牧の原と同様に,意匠の同一な照明器具がない箇所については,代替品で更新されている。これにより,間接照明を用いていた改札付近が直接照明化されたほか,ラチ外のドーム屋根についてはハの字状に配置された直管形LED照明で照度が確保された。
駅施設以外の照明のLED化については,当年度は車両基地において検修庫内のダウンライト等がLED化されている。車両基地や変電所等の駅施設以外では水銀灯等の従来型照明の残存がまだ確認できる。
自動列車停止装置の更新(C-ATS化)
2018年度より実施されている中間閉そく区間における自動列車停止装置の更新については,かねてより施工されてきた印西牧の原・印旛日本医大間が当年度よりC-ATS化された。残る2工区については,新鎌ヶ谷・小室間では信号側の本体工事が始まり,小室・印西牧の原間でも付帯工事が進行した。
印西牧の原・印旛日本医大間については,12月2日早朝にC-ATSへの切替が完了した。本件区間以前は京成高砂方から連動駅間単位で順に施工が進んできたが,新鎌ヶ谷より下部に残る3区間では最も終点方である本件区間が先に切替を迎えた。本件区間の切替に際しては,昨年度切替の東松戸・新鎌ヶ谷間と同様に切替前の試験が簡略化され,実列車による事前の走行試験を省略,切替当日の早朝に確認列車が設定された。確認列車は前日深夜に印西牧の原3番線に据え付けられ,上り初列車の前に印西牧の原・印旛日本医大間を1往復走行した。
新鎌ヶ谷・小室間については,B点におけるループコイルや器具箱等の現場設備の施工が始まり,切替を前に本体工事が本格化した。小室・印西牧の原間では昨年度に引続きB点に対する防護マクラギ挿入等の付帯工事が進められている。進捗状況を踏まえれば次の切替区間は新鎌ヶ谷・小室間と考えられる。
列車無線の更新(デジタル化)
2018年度より実施されている列車無線のデジタル化については,昨年度までに直通各社局間での相互運用が開始されていたところであるが,当年度においては4月22日付でデジタル列車無線への完全切替が行われ,従来の誘導無線によるアナログ列車無線が廃止された。
廃止後のアナログ列車無線設備については,地車ともに設備の機能停止や撤去が進められた。地上側では,第2四半期より千葉ニュータウン鉄道区間の小室・印旛日本医大間で誘導線が撤去された。
ITV装置の更新(フルハイビジョン化)
曲線等によって乗降の確認が困難なホームに整備されているITV装置については,2021年度よりフルハイビジョン化が進められ,あわせてモニタの縦型化が図られてきたところであるが,当年度は2駅3ホームが更新された。
当年度に更新されたのは,北国分1番線,松飛台1番線,同2番線の3ホームである。ITVのモニタ面数は,北国分1番線が1面,松飛駅1番線が2面,同2番線が4面で,既設のモニタと面数に増減はない。松飛台2番線については,既設ハウジングには視認性確保のため大型の背板が設けられていて,2列2段の画面配置であったが,新設ハウジングは背板なしの4列配置に改められた。
発車標の更新
旅客案内設備のひとつである発車標については,老朽化した東芝製発車標の更新がかねてより行われてきたところであるが,当年度においては残る印西牧の原で発車標が更新され,東芝製発車標に関する更新工事が全駅で完了した。
東芝製発車標は,1990年度のHTC導入にあわせて新柴又・千葉ニュータウン中央間の各駅に設備されたLED式の表示器である。その後も路線延伸にあわせて各駅に整備されていったが,HTCの更新にあわせ2007年度に日本信号製の後継機種が導入され,2010年代を通じて東芝製発車標の更新が行われてきた。
本件工事で更新された印西牧の原には,1995年度の駅開業にあわせて1・4番線に各2基,コンコースに1基が設置され,後の印旛日本医大延伸を控えた2000年度に3番線の2基が追加設置された。いずれも最大3列車分の表示と電気時計を有し,2018年度に新柴又,松飛台,大町の3駅が日本信号製に更新されて以降は唯一の東芝製発車標だった。
新設された発車標は新陽社製で,コンコースには上下線別のLCD式が各1基,ホームにはフルカラーLED式が各2基設置された。いずれも色覚に障がいのある利用者に配慮したカラーユニバーサルデザインの認証を受けており,日本語を母語としない外国人利用者への配慮として日英中韓の4ヶ国語表示が可能である。
発車標の設置方については,コンコース上では,トイレ付近のコンコース中央から階段付近の左右に振分けられて設置され,既設発車標の中央部にあった電気時計はLCD内の時刻表示に代替された。ホーム上については,1・2番線がホーム単位,3・4番線が番線単位であった既設の設置方が見直され,各ホームともにホーム単位の設置に統一された。
電子電鈴の更新に伴う出発指示合図の変更
出発指示合図に用いられる電子電鈴については,3月中旬より6連動駅すべての更新が行われた。電子電鈴においては,隣接番線との区別のために1・3番線と2・4番線で異なる鳴動音が設定されており,既設ではいずれも断続鳴動ながら高音と低音で区別されていた。本件工事後は,1・3番線が断続鳴動,2・4番線が連続鳴動となり,いわゆるベル音とブザー音に区別された。また,一部箇所においては更新に伴いスピーカの個数及び位置に変更が生じている。
旧多重無線基地局鉄塔の撤去
北総線開業時に有線通信設備のバックアップとして設備された多重無線については,設備廃止後も基地局の鉄塔が残存していたが,当年度において旧新鎌ヶ谷局の鉄塔が撤去された。
北総線の多重無線は,千葉ニュータウン区間で高速道路(北千葉道路専用部)と通信線路が並行することから,事故対策の観点から有線通信設備のバックアップとして設けられたものである。基地局は新鎌ヶ谷と小室に設けられ,それぞれパラボラアンテナを備えた鉄塔が建植されていたが,設備の廃止後は鉄塔のみが残存していた。旧小室局の鉄塔は列車無線のデジタル化に際して転用されたが,旧新鎌ヶ谷局については目立った用途がなく,年度末にかけて撤去が行われた。
車両関係
定期検査の施行
当年度においては3編成の定期検査が施行された。各編成の検査種別及び施行日は,7808編成の重要部検査が5月26日付,9128編成の全般検査が8月17日付,9808編成の全般検査が11月2日付である。
5月に重要部検査を終えた7808編成については,検査にあわせて集電装置の更新が実施された。京成電鉄からの貸借車を対象とした集電装置の更新は,2019年度より順次実施されてきたところであるが,今回の7808編成への施工をもって全編成で完了した。更新後の集電装置は他編成と同様のシングルアーム式PT7131B3-M形である。
列車無線デジタル化に伴う誘導無線装置の使用停止・撤去
当年度4月に列車無線のデジタル化が完了したことから,既設のアナログ式誘導無線装置については当年度より使用停止及び撤去が進められた。
各編成においては,4月中旬以降の月検査施工にあわせて車上側の送受信機と空中線間の接続が外され,無線装置としての機能停止が図られた。施工は送受信機の空中線接続コネクタを外すのみで,この時点での機器や配線の撤去は行われていない。誘導無線装置の撤去工事は車両確認に基づき第2四半期以降に着手され,当年度は9128編成を皮切りに9100形3編成と9200形1編成の計4編成に対して,10月までに空中線及び送受信機等の各機器が撤去された。
補助電源装置の更新(SIV化)
東芝製DC-DCコンバータを対象とした補助電源装置の更新については,昨年度に引続き9100形の更新が行われた。当年度においては9月に9118編成が更新されており,更新対象である東芝製DC-DCコンバータを搭載した車両は9128編成のT車2両を残すのみとなった。
7500形における空調装置の更新
7500形を対象として2019年度より実施されている空調装置の更新については,当年度は残る7503編成で施工され,7500形全編成の更新が完了した。
本件工事は3月に宗吾工場で実施され,他編成と同様に空調主回路箱や冷房機が換装された。なお,更新後の空調装置は更新前と同じ三菱製で,冷房機の型式は他編成と同じCU718Aである。
9100形における側窓・座席の更新
公団Ⅱ期線の印西牧の原延伸開業にあわせて導入された9100形1次車においては,これまで客室の大規模な修繕が実施されていなかったが,当年度において側窓の一部固定化や座席詰物の更新が実施された。
側窓及び座席更新が実施されたのは9108編成で,11月から12月にかけて印旛で施工された。側窓は7300形等の車体改修車で実績のあるUVカットガラスに変更され,側引戸間の大窓について片側(半数)が固定化された。側窓の改修にあわせて優先席ステッカー類の貼替も実施され,2021年度に9107号車山側で採用されたヘルプマーク等が一体となった新様式のステッカーに統一された。南北両端に設けられていた妻引戸(貫通扉)は北寄を残して撤去され,残置された北寄の引戸は自閉機構付に改良されている。このほか,ロングシート,クロスシートともに座席詰物が更新され,クロスシートについてはグレーの表地が省略され,使用表地の種類削減が図られている。
7300形における運番表示器の更新
7300形の車両正面における運番表示については,2004年度の一時的な使用を経て2006年より3色LED式の表示器が使用されてきたところであるが,当年度において白色LED式の表示器に更新された。
運番表示器の更新は2月に印旛で施工された。既設の表示器に使用されていた3色表示の砲弾形LEDは供給縮小して久しく,更新後の表示器にはチップ形の白色LEDが使用されている。表示文字の字形及び文字種は既設表示器と同等である。なお,本件工事と同時期には京成電鉄でも3700形を対象に運番表示器の更新が始まっているが,当年度において貸借車両への波及はなかった。
防眩ロールカーテン可動範囲の変更
運転時の防眩を目的に設備されている乗務員室前面のロールカーテンについて,一部車両において可動範囲を下方に拡大する改修が実施された。
ロールカーテン可動範囲の拡大が図られているのは,7502-8号車及び7308号車の2両である。いずれも2月末から3月上旬にかけて印旛で施工されているが,他車両には波及しておらず供試状態にある。
非常用設備に関する表示の変更
鉄道車両における非常用設備については,かねてより使用方や注意事項を示した銘板等が客室内に表示されてきたところであるが,当年度において各表示の見直しが図られた。非常用設備に関する表示については,昨今の本邦において列車内で非常事態となる事案が複数発生していることを受け,従前は各鉄道事業者で実施してきた非常用設備の表示方を共通化及び標準化することで案内の改善を図るべく,国土交通省鉄道局が2022年6月に「車内非常用設備等の表示に関するガイドライン」を定めている。本件変更は,当該のガイドラインに基づいた表示方への見直しが行われたものである。
非常用ドアコックについては,先のガイドラインにおいて赤以外の色を起用することが定められたことから,黄色を基調とした意匠かつ日英2ヶ国語表記のステッカーに見直された。既設の非常用ドアコック銘板は撤去されず,ステッカーが既設銘板の上に掲示された。
非常通報装置については,従来は通話機能の有無にかかわらず一貫して「非常通報器」と称されていたが,先のガイドラインにおいて通話可能な装置が「非常通話装置」と位置づけられたことから,いずれも通話機能を有する現有車両の非常通報装置は「非常通話装置」に改称された。
7500形等で使用されている新型の非常通話装置については,筐体の「非常通報器」表記の上から「非常通話装置」のステッカーが掲示され,隣接して使用方や機能を示したステッカーも設置された。7800形や9800形で使用されているカバー付の装置については,非常通報器の銘板が撤去され,カバー下部に使用方や機能を示したステッカーが掲示された。
これらの非常用設備において客室内の設置位置を示した案内表示については,非常通話装置の名称変更にあわせて再作成され,あわせて表示位置が戸袋から側カモイに変更された。側カモイについては,コロナ禍の2020年度より抗菌・抗ウイルス施工を示すステッカーが掲示されていたが,当年度より当該ステッカーの掲示が取り止められ,非常用設備の案内表示に代替された。なお,非常用ドアコック及び非常通話装置に関するステッカーについては,暗所において地色部分が発光する蓄光仕様の素材が使用されているが,設備位置案内については既存と同様に通常のステッカー素材が用いられている。