北総車種別幕:NT80―汎用側面用2010年度版

概要

行先種別表示器をめぐる状況は,技術の進歩や保守の容易化,環境負荷の低減など様々な要因により,LED表示器など次世代の表示器がシェアを日々伸ばしており,そうした傾向は2000年代中頃から北総車でも見られるようになった。既に2010年度の時点で,北総車で種別幕を必要とする車両は7300形1編成,7260形1編成,9000形2編成の計4編成にまで減少していたが,数年先までは細々と使用せざるを得ない状況にあったのも事実だった。

こうした最中に迎えた2010年度の大規模なダイヤ改定により,北総車種別幕にエ急行と快速を追加する必要が生じた。数年先の淘汰も現実味を帯びる状況で新規に制作された種別幕がNT80である。

NT80は北総車の新たな汎用種別幕であった。この時点で北総車の方向幕装置は全てセンサ式YA-90199系に統一されており,汎用行先幕N100のように種別幕も形式問わず使用可能な汎用幕が制作可能だったからだ。1995年度以来,センサ式の種別幕は京成由来のものと北総オリジナルのもの,この2種類が区別されて使用されてきたが,奇しくも方向幕装置を搭載する車両が減ったことで,それを統一する土壌が生まれたのである。

NT80の配列は,NT50をベースとしながらも新たな要素が盛り込まれたものとなった。

まず,1コマ目の基準コマは黒無地ではなく快特で,NT71のような設計である。続く2コマ目以下は特急,通勤特急,急行,普通と並び,快特から普通まで,NT51に収録されていた種別が速達順に配列されている。NT50系では通特と略していた通勤特急の表示は再びNT40と同じフル表記になったが,これは,同じく通勤特急がフル表記となったKT50が制作された後のデザインだったからだろう。普通の下には,回送,試運転,臨時と続き,更にその下に快速とエ急行が入る。

快速とエ急行の位置の違和感は正面用のYA90221向けで特に顕著に感じられる。7300形や7260形正面に用いられるYA90221用種別幕のNT80は,快特から臨時までの8コマはそれまでのNT50系を踏襲した白地細文字のデザインであるのに対し,快速とエ急行の2コマは,2010年度に京成が制作した新種別幕KT60に相当する,種別色を地色としたヌキ文字のデザインであった。これまでもデザインの新旧が同じ字幕に混じる事例はあったが,その原因と経緯は,ある字幕の使用期間中に字幕のデザインが変わり,変更後に追加する表示は全て新デザインで起こされたため,混ざってしまったというもの。つまり,このウェブサイトの字幕分類番号が00では起こらず,01や02と改版する過程で起こっている。しかし,この字幕は製版されたのは2010年6月のことであり,新規に制作した原版の時点でデザインが混じるという異例の字幕となった。

考えうるのは,2010年度以前に1~8コマ目の内容で版だけを作成し,実際に制作することはなかったものが,2010年度の新規制作時に日の目を見た…という可能性。とはいえ,2010年度以前は種別幕を新規に製版するような事情もなかったわけで,版だけ存在していたという考え方には疑問が残る。

かくして登場した珍妙な種別幕NT80だったが,方向幕の淘汰という時代の潮流には逆らえず,2016年度末を以て全て姿を消した。言い換えれば,それは北総車種別幕の完全な淘汰であり,1978年度から続いた種別幕の歴史に終止符が打たれたのである。

字幕一覧

△1:快特

△2:特急


△3:通勤特急

△4:急行


△5:普通

△6:回送


△7:試

△8:臨時


△9:快速

△10:エ急行