概要
1990年度の北総2期開業,つまり都心直通開始に際して制作された種別幕の一つである。
7000形用の種別幕NT00は,行先幕N00やN10と合わせて使用する都合から,収録されている表示が普通しかなかった。しかし,都心直通運転開始後,北総車は乗入れ先となる京急線内で急行運転を行うことから,NT00では当然対応することができず,急行を含む字幕を制作する必要があった。
こうした経緯から制作されたNT10は,基本仕様はNT00を踏襲しながらも,その内容はNT00から大きく見直されたものとなった。
NT00からの変更点として,通勤特急,特急,急行の3優等種別が追加された点が挙げられる。当時,京成で運行されていた優等種別を全て収録した形で,その配列も1990年度の特急停車駅見直し以前の京成種別体系における速達順配列となっている。
また,合わせて制作された行先幕N30では,都心直通運転に必要な他社線の行先が多数追加されるとともに,N10以前の行先幕に収録していた回送と試運転の表示が削除された。これは,7300形など他形式と仕様を合わせ,回送や試運転を種別側で表示するという意図あってのことだが,こうした経緯から,NT10にはNT00に無かった回送と試運転,さらに臨時の表示が追加された。
これらの配列は,YA-4650系接点式表示器の仕様を踏まえ,最上端に黒無地の基準コマを置き,無印刷のコマを3コマ挟んで,臨時,試運転,回送と,通勤特急以下速達順で最下端を普通とした。当時の北総車の運用体系では,営業列車は普通と急行の2種別のみだったことから,普通と急行が最下端付近に集まっているNT10の配列は,逆転回路のトリガー付近に使用頻度の高い表示が集まり,効率的な配列だったと言えよう。
さらに,当時の四直ではまだ京急車のいわゆる「黒幕車」にしか無かった,種別幕の地色を種別色として文字をヌキ文字とするデザインを取り入れたのも大きな注目点である。このデザインは,列車種別を明確に伝える工夫の一つであるが,当時,京成や都交車両では優等種別に限って文字色を赤文字とする程度であり,文字や地色を種別色で分けるデザインは今ほど一般的ではなかった。
NT10の配色は,試運転,回送,通勤特急,特急の4コマが赤地,急行が青地で,臨時と普通は黒地である。印刷の製版コストを考える時に,同じ地色のコマが隣接していたほうが,色ごとに製版する都合上,手間は少なくなる。NT10の配列を改めて見ると,赤地のコマが集約されているのは製版の事情とも考えられる。黒地のコマは分散してしまっているが,そこは製版よりも機能性を優先したと見るべきか。