北総車行先幕:N10―北総7000形側面用1981年度版

2016年1月14日公開・ 最終更新

概要

1978年度に開業した北総1期線には,新鋭7000形車両3編成18両が投入された。7000形には電動方向幕表示器が搭載され,これによって正面ならびに側面に種別と行先を表示した。当形式の表示器には,親会社である京成の新型車両3500形で用いられていた八幡電気産業製のYA-4650が採用され,サフィックスに北総を示すHを追加したYA-4650AHとして導入された。YA-4650系は,表示器の上シャフトと字幕裏面の金属箔が触れ合うことで電気接点となり,検知回路を構成する「接点式」と呼ばれるものである。指令器にはYA-4651,指令器と表示器を結ぶ制御箱にはYA-4652が採用された。これらの装置は,種別11コマ,行先20コマを上限とした指令・制御が可能であった(内部の接点やコネクタの都合上,上限を超える字幕の制御は不可能)。

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△方向幕故障時の備えとして各行先の方向板が用意されていた

7000形登場当初に装填されていたN00は,北総にとって最初の方向幕であったが,その生涯は短命なものであった。N00には将来の公団線直通運転を見据えた「ニュータウン中央」の表示が含まれるなど,北総2期線開業までの比較的長期間の使用を想定した内容とされていたが,その一方で定期列車で設定されていた行先の「北初富」が含まれていない致命的な欠陥を抱えていた。北初富の欠落については,方向幕故障時への備えとして各車両に用意していた「方向板」を貫通扉のステーに取り付けることで対応していたが,あくまで暫定的な対応であったようで,千葉ニュータウン中央への直通運転が始まる以前に字幕を交換し,北初富の入ったN10へ移行している。

こうして登場したN10は,それまでのN00から配列を大きく改めたものとなった。北初富の追加によって,試運転および回送は1コマずつ上に繰り上がった。13コマ以下に入る行先コマは,YA-4650系の動作原理に沿った配列に変更され,松戸と小室をそれぞれ18コマ・19コマ目に配置した。なお,N00では松戸を14コマ目とし,以下を西から順に配置する方法をとっていた。YA-4650系では,指令線に電圧が印加されると位置に関係なくモータが正転するように制御部が回路を構成する。そのまま正転中に指令されたコマに到達すればモータは停止するが,例えば2コマ目を指令されていながら10コマ目から正転を開始した場合は,正転中に2コマ目に到達することはありえない。この場合,最下段の20コマ目まで到達した時点で逆転リレーが落下し,モータは逆転方向に動く。そして逆転中に指令されたコマに到達すれば動作が停まるという仕組みである。ゆえに,松戸と小室を最下段付近に固める配列では,松戸表示中に小室を指令すれば1コマの移動で済み,逆の場合は小室から1コマ進段した後に逆転して2コマ戻る移動となり,両者の移動距離は最短の組合せを得る。つまり,松戸と小室の最下段配列は,使用実態と表示器の仕様を鑑みて導き出された理想的なものであると言える。また,この配列での制作は千葉ニュータウン中央延伸以前しかあり得ないことである。

N10には,行先幕でありながら「試運転」と「回送」が収録されている。当時の北総車種別幕には「普通」と「黒地」の2種類しか入っておらず(配列は普通,黒地,普通,黒地…と交互に3セット分入っていた),試運転や回送は行先側に表示するようになっていたのである。また,「ニュータウン中央」や「新鎌ヶ谷」といった制作当時に未開業であった(もしくは営業していなかった)駅が含まれているのも特徴と言えよう。なお,「くぬぎ山」や「西白井」は北総車の定期運用において設定がなく,実際に使われた行先は半数に満たなかった。

N30以降の北総車行先幕では,千葉ニュータウン中央の表記は概ね「ニュータウン」を強調する方向で制作されており,「中央」を強調していた字幕はN00とN10の2種類だけである。北総線は千葉ニュータウンの通勤路線であり,特に1期線の頃は千葉ニュータウンのための路線であった。ゆえに,わざわざ千葉ニュータウンを強調する必要はなく,ニュータウンの中心地区である「中央」地区に向かうことを強調すれば良かったのだ。ニュータウンに対する考え方の変化が窺える表記である。

字幕一覧

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△1:基準(黒地)/2:黒地

3~9:空白


10:試運転

△10:試運転

11:回送

△11:回送


13:ニュータウン中央

△13:ニュータウン中央

12:空白


14:新鎌ヶ谷

△14:新鎌ヶ谷

15:くぬぎ山

△15:くぬぎ山


16:北初富

△16:北初富

17:西白井

△17:西白井


18:松戸

△18:松戸

19:小室

△19:小室


20:空白