2018年3月25日公開・ 最終更新
パスネット「ほくそうパッスルカード」のあらまし
パスネットとほくそうパッスルカード
ひところまで鉄道のプリペイドカードといえば,自動券売機で乗車券を買い直すものだった。1990年代に自動改札機が普及するようになると,改札機を通すだけでカード代金から運賃を差し引くことが可能となった。ストアードフェア(SF)システムの始まりである。
最初期は事業者ごとに独立したシステムであったが,次第にシステムの共通利用・統合が進むようになった。こうして「共通乗車カード」が普及していったが,そのなかで2000年に首都圏の民鉄を中心として誕生したのが,共通乗車カードシステム「パスネット」であった。北総開発鉄道は当初からパスネット協議会に加盟し,2000年10月のパスネットサービス開始当初の17社局のひとつとなった。
ところでパスネットという名称は,あくまで共通乗車カードシステムの総称にすぎなかった。鉄道事業者は,パスネットというシステム名称とは別にカード名称を定めていた。パスネット以前からSFシステムを導入していた鉄道事業者は従来からの名称を踏襲することが一般的であったが,北総開発鉄道にとっては初めてのSFシステムであったことから,パスネット導入と同時に「ほくそうパッスル」というカード名称が新たに制定された。
ほくそうパッスルカードの発売体制
パスネットシステムの導入を前に,北総線各駅にはSFカード対応の自動券売機(日本信号SX-5)が設置された。自動改札機は従来からの機種(日本信号GX-5ほか)を使用したが,同時に複数枚のカード投入ができない機種だったことから,カード残額不足時に課題が残った。しかも当時は自動精算機の設置率が低かったことも課題に追い打ちをかけていた。のちに2枚投入対応の自動改札機や自動精算機が整備されていき,これらの課題は次第に解決していった。
購入箇所は,前述の対応券売機もしくは駅窓口が主となった。一部のカードは,北総の参加する即売会や北総本社での通信販売を利用した購入も可能だった。自動券売機での購入の場合,券売機ブース上部に装填している図柄の案内が出ていることが一般的だった。自動券売機での発売額は1,000円,3,000円,5,000円の3段階で,後述する汎用券のみ発売された。なお汎用券には,営業機器によって発売箇所や発売額が印字されたが,北総本社で発売処理したカードの箇所名は「北総」と印字されていた。
カードにはいくつかの種類があった。最も一般的だったのは,発売時にカードの額面設定が可能な汎用券である。公式には1,000円,3,000円,5,000円の3段階のみとされていたが,これとは別に500円という額面でも発売処理が可能で,一部には500円で発売されたカードも存在している。もうひとつは駅窓口と即売会のみで発売された額面固定券で,額面はすべて1,000円固定だった。額面固定券のなかには沿線企業等からの注文で制作される特注券も存在した。特注券の注文方法を時刻表等で一般に広く告知した他社と異なり,北総開発鉄道(北総鉄道)では特注券は広告しなかったため,その存在はほとんど明らかになっていない。
ほくそうパッスルカードは北総線の営業施策のひとつとして位置づけられた。カードは数百枚単位で制作可能だったようだが,北総では数千~数万枚を1ロットとして制作することが一般的で,とりわけ社名変更までの3年間には1ロットごとに図柄を変えることも珍しくなかった。ロット番号はカードの裏面の券番号から確認することができ,汎用券などの種別も券番号に記されていた。ロット番号は券番号の上3桁で概ね判別可能で,上1桁の英字は種別を示している。汎用券はG,額面固定券はB(サービス導入時の17社局合同セットのみA),そして特注券にはEが記されている。ちなみに,2002年度から2004年度にかけて発売された「沿線自治体シリーズ」は北総線沿線の8市区村(葛飾区,松戸市,市川市,鎌ケ谷市,白井市,船橋市,印西市,本埜村,印旛村)との共同で制作されたもので,自治体職員の出張用に購入してもらうなどの営業が行われたという逸話が業界誌に掲載されている。
カードデザインの変遷
ほくそうパッスルカードは,前述のようにロットごとに異なる絵柄で制作されることが多かった。新たな絵柄を発売する際には,古くは季刊誌「ほくそう」,公式ウェブサイトの開設後は公式サイト上で告知されることがあり(汎用柄などは告知されないこともあった),発売開始日と発行枚数を知ることができた。
2000年度
導入初年度にあたる2000年度には,汎用券2種類と記念券1種類の存在が確認できている。G02は開業からまだ日の浅かった印旛日本医大駅を背景にしたものである。この絵柄はGシリーズであるが,パスネット開始時の事業者合同セットにも額面固定タイプとして収録されており,これはA01として別ロットである。
年度末には都心直通運転開始10周年の記念券も発行された。カードを使った記念券はテレホンカードなどでよく見られたが,北総もパスネット導入前の1998年度に印西牧の原駅「関東の駅百選」選定記念でカードの記念券を出している。このときは東京都交通局のTカード500円券だったが,さらに昔には第2期線開業直前のウォークラリー参加者向けにテレホンカード(50度数)を配ったこともある。
2001年度
2001年度からは「シリーズもの」が登場。この年の冬からスタートした「四季シリーズ」は汎用券だが,後にG05~G08をまとめた台紙つきセットでも発売。また,9月の特急運転開始に向けてはG04を投入して告知に努めた(もちろん駅でチラシも配布されていた)。年初には「七福神シリーズ」が柴又七福神でスタートする。
2002年度
この年には会社創立から30年を迎えた。創立30周年記念で開催された児童絵画コンクールの優秀作品4点を絵柄に採用した「児童絵画シリーズ」G10~G13や,同じく創立30周年記念でヘッドマークを付けて走った7000形3編成を並べた絵柄のB02を発売している。
さらに,2002年の日韓ワールドカップに合わせて英語版パスネットを5月に発行。事業者ごとに1000円(水色)・3000円(オレンジ)・5000円(緑)から券種を選んで発行するものだったが,北総のロットはB01B025で,1000円券(水色)のみの発売だった。B01というロット自体は2000年度の都心直通運転10周年で存在しているが,そちらはB01B013で別ロット扱い。北総発行分で頭3桁で判定できないのはこの2種だけの模様。
前年度から続く「四季シリーズ」は春,夏,秋と発売されて完結。カードのロット番号は冬のG05から連番でG08まで。G08は当初の図柄にスペルミスがあり,早々に図柄の修正が図られた経緯がある。
一方で,沿線自治体との共同制作による新シリーズ「沿線自治体シリーズ」が10月の印旛村からスタート。沿線で行われていたゴルフトーナメントを増収に活かそうと「サントリーオープンシリーズ」もこの年に始まった。
鉄道の日記念は,7050形の検査期限延長のために当時借り入れていた3400形を京成車の代わりとして出演させた「乗入車両大集合!」。年度末には「ほくそう春まつり」のカードも発売。
2003年度
前年度に引き続いて「沿線自治体シリーズ」が発売されたほか,「四季シリーズ」は電車ではなく沿線の名所を1枚に集めた図柄として再出発。年度初のほか年度末にも別の図柄が出ている。
秋に発売されたG25はG02以来のオリジナル汎用柄で,印旛車両基地に9100形・7300形・9000形・7000形を並べたもの。G24のサントリーオープンとG26市川市のツナギとして使われたが,この年に発売された鉄道の日記念カレンダーにも500円券として封入された。
G28のクリスマスイルミネーションは微妙に北総沿線ではない中山競馬場のもの。続くG29は北総線内でも撮影が行われたことで話題となった映画「ゴジラ・モスラ・メカゴジラ 東京SOS」の公開記念タイアップだった。
鉄道の日記念はB06「北総7000シリーズ」で,7000形・7300形・7800形の各車両を車両基地で撮影したもの。年末には12月23日限りで廃車となった7050形の引退記念でB07が発売される。年度末にはB08「小室⇔千葉ニュータウン中央間開業20周年記念」を発売するも,春まつりカードはB09「北総線開業25周年」に吸収されて発売なし(ただしB09の図柄は春まつりヘッドマーク電車)。
2004年度
2002年度より続いた「沿線自治体シリーズ」は,4月のG32松戸市,6月のG33葛飾区で完結。滑り込みで社名変更までにシリーズが終わった。
7月の北総鉄道への社名変更に際しては,B10「さよなら北総開発鉄道」,B11「はじめまして北総鉄道」をセット発売。B10とB11はそれぞれ右下の社名欄が車両の社名銘板になっている図柄で,裏面の発行事業者名もB10は北総開発鉄道株式会社,B11は北総鉄道株式会社とされている。
社名変更後には汎用券のリニューアルも行われ,2003年度から使われるようになったデフォルメ電車キャラクターと路線図を組合せたG34が発行された。また,パスネット各社局共通の絵柄として存在した各社局の車両をあしらった共通汎用柄もリニューアルされ,G35として発行された。常備券などと異なり社名変更前の図柄は廃棄されておらず,しばらくはG33以前の図柄も購入できた。
鉄道の日記念は昨年度のB06「北総7000シリーズ」と対になるB12「北総9000シリーズ」。さらに,懐かしい社内蔵写真を使った図柄が秋の鉄道イベント合わせで発売された。10月下旬発売のB13は新京成くぬぎ山基地公開にあわせ「北総7000形&新京成500形」,11月中旬発売のB14は都営フェスタ馬込合わせで「北総7150形&都営5200形」という具合に出店先の事業者を想定した図柄を選んでいる。年度末にはB16「ほくそう春まつり」を発売するが,番号の前後するB15「印西牧の原駅開業10周年」は翌年度4月からの発売。
なお,「七福神シリーズ」はネタ切れなのか再び柴又七福神に戻っている。
2005年度
この年以降,新規「シリーズもの」はなくなった。ロットが捌けてくると昨年度に制作したオリジナル汎用柄のG34や共通汎用柄を重版している。1ロットあたりの制作枚数も増えているとみられ,年度末に発売されたG45は1ロット100,000枚という従来の倍以上の枚数が制作されている。
鉄道イベント向けに発売してきた社内蔵写真シリーズは,5月の京急久里浜工場公開あわせでB17「北総7150形&京急600形」を発売して終了。記念券はこまめに発売しており,7月にはB18「印旛日本医大駅開業5周年」,10月の鉄道の日記念では「公団2000形→公団9000形」を発売。鉄道の日記念の図柄は1994年夏の定期検査にあわせて公団2000形の改形式が行われた際のもので,6月に出場した9008編成(旧2001編成)と8月に入場を控える2002編成(→9018編成)が西白井で並んでいる写真を使っている。この写真は2016年度末に9000形が全廃となる際にもポスター用の写真で使われた。
年度末に登場した7500形は北総鉄道にとって15年ぶりの新造車ということもあり,2月にB20「7500形デビュー」で記念券を発売するだけに留まらず,3月にはG45でオリジナル汎用柄も発売されている(パスネット以外では硬券入場券も発売したほか,ポスター展開や試乗会,絵画展なども開催した)。
2006年度
新規の図柄はほとんど作成されていないが,パスネット協議会の共通汎用柄は加盟する他事業者の都合で毎年のように図柄を改めており,この時点で通算5代目となるG41が重版されてG46として発売されていた。
鉄道の日記念はB22「7500形」だが,これは京成グループ3社(京成・新京成・北総)で標準車体各車種のセット発売としたもの。
年度末にはパスネットに代わる交通系ICカード「パスモ」がサービス開始。パスネットの発売自体は翌年度まで続くが,この時点で利用者はパスモに移行し始めており,パスネットの需要は収束に向かっていった。
同じく年度末には7000形が引退したため,オリジナル汎用柄にG53「さよなら7000形」が登場。パスモ導入でロットの捌けは悪くなっており,駅によっては最末期までこのロットが残っていた。
2007年度
長らく続いた「サントリーオープンシリーズ」の最終作G55「サントリーオープン2007」が発売され,これが駅向けには最後の新規図柄となる。そのサントリーオープンも2007年度の開催を最後に大会終了となった。
すでに発売終了が目前に迫っていたこともあり,この年に記念券は制作されなかった。鉄道の日記念は第2期線開業当初のダイヤ(ただしNo.7ダイヤの北総線区間のみ)が付属した乗車券セットだった。その一方で,鉄道の日記念として昨年度末に引退した7000形の記念写真集が発売され,G56「ありがとう7000形」が500円券で付録される。G56は駅発売されず,このロットをもって「ほくそうパッスルカード」は終了した。