おまけ:北総線朝ラッシュ時の混雑傾向

相変わらず時間と労力を浪費しただけの誰得なぱげ。

この手の調査は手法とその後の分析次第で学術的な論文になるのは重々承知の上だが,高砂第一工廠は北総線趣味のウェブサイトであって論文リポジトリではないので,ゆる~~~~く駄文に留めている次第。

調査の根拠もやり方も全てがテキトーなのであーだこーだ専門的な話は受付けましぇ~ん。

「空いている」とは言われるが…

△こうやって北総線=空いているのイメージは形作られる(*1)

さて,北総線の朝ラッシュはどれくらい混むのだろうか。

沿線の方ならいつも乗る電車を思い浮かべておおよそこれくらいと言えるだろうし,むかし使っていた方なら空いている電車をイメージすることもあるだろう。

人によっては今もガラガラだと信じているかもしれない。かつて「先行き怪しい空き地だらけのニュータウンを走る北総線は客が乗らずに経営危機」という構図でメディアにずいぶんと煽られたので,すっかり北総線は空いているイメージがついてしまったのだ。

ひところまでは確かにその通りだった。開業まもない頃には「昨日は何人,今日は何人…」と数えられるような日もあったそうな。1980年代の北総線を取り上げた『エコノミスト』誌(*1)には,せいぜい肩が触れ合う程度の混雑しかないと当時の混雑の具合が記されている。

しかし,千葉ニュータウンの足として計画された北総線は腐っても通勤路線だ。それは成田空港輸送の一翼を担うようになった現在でも変わらない。

この性格を数値で測ろうとする場合,通勤・通学利用者の多くが定期券を利用することから,輸送人員に占める定期券利用者の割合が高い路線を通勤路線と考えることができる。北総線全体の利用者における定期券利用者の割合は2015年度時点で69%であり,その割合は全国の事業者平均と比べて高く,通勤路線としての性質を捉えることができる。

その通勤路線といえば,通勤・通学時間帯における混雑が社会問題として取り沙汰されてきた。

とりわけ,高度経済成長期の三大都市圏における人口の社会増加によってもたらされた郊外と都心部を結ぶ鉄道路線の混雑は「殺人的」とまで評された。これに対して鉄道事業者では,車両や変電所の増強により運転本数を増やしたり,編成両数を長大化したりと様々な対策を講じてきた。さらに,バイパスとなる新線の開業も加わって,混雑は年々改善する傾向にある。

△ある日の朝の北総線。本当に混んでいるのか?空いているのか?

こうした鉄道の混雑を示す指標として,国は混雑率という考え方を提示してきた。

これは,一定の時間・区間の輸送人員を輸送力で除することで求められるものである。その輸送力の算出には,鉄道車両の定員という数値が用いられる。鉄道車両における定員は自動車などと異なり,安全基準としての数値ではない。あくまでサービスレベルとしての数値であることから,定員乗車であっても車内にはかなり余裕がある。言い換えれば,混雑率100%というのは余裕のある状態を示しているのだ。

国交省が年1回公表している各路線の混雑率は,東京都市圏において平均163%となっているが,これは最も混雑する朝ラッシュ時間帯のピーク時1時間の値である。北総線における2017年度の公表値は,新柴又を7:24~8:23に通る上り列車を対象に計測していて,通過する特急を含めた11本の列車の平均混雑率は92%を示している。92%という混雑率は,国の混雑率改善目標が150%であることからもかなり良好なものと言える。


△千葉ニュータウン中央駅の掲示。前よりは空いているらしい。

ところが,この数値はあくまで1時間の間に走る全列車全車両を均した値であり,車両の連結位置や列車による混雑の偏りを測ることはできない。実際に朝の上り特急列車を見ていると,とうてい92%の混雑率とは思えない状況だ。一方の普通列車は空席すらあるような列車もあるのだ。利用者として,普通列車よりも特急列車は混むという印象をうける。

車両によっても混雑は偏っている印象だ。以前,私が7号車に乗って通勤していたときには他よりも混んでいる印象だったし,それ以前に5号車に乗っていたときはしばらく経って空いている3号車に移ったのを覚えている。それを示すように,駅によっては前よりの車両が空いているという案内の掲示がある。

いずれの話も数値を伴わず,印象だけがおぼろげに浮かんでいる。
92%という「空いている」らしい数値と混んでいる車両の印象では納得できまい。
北総線の朝ラッシュについて,もう少し詳しく掘り下げてみる必要があるだろう。

*1)池畠恵治(1985)「 私鉄沿線26 千葉ニュータウン(北総開発鉄道)―脱”千葉都民”への故郷づくり」,『エコノミスト』63(43),毎日新聞社

混雑は偏る

そこで,西白井~新鎌ヶ谷間において朝ラッシュ時間帯の混雑度を調べてみることにした。
この区間を選んだのは,調査のしやすさもさることながら,以下の点で混雑の偏りを予想したからだ。

朝ラッシュ時間帯における北総線上り方面の列車は,アクセス特急列車,特急列車,普通列車の3つの種別が選択肢となる。このうち,アクセス特急列車は全線に通過駅をもつ最速達タイプの列車であるが,特急列車と普通列車は新鎌ヶ谷以北において各駅停車である。

△最近はどれも座れないのがヤだなあ…

千葉ニュータウンから上り方面を利用する旅客にとって,3種別はどのように選ばれるのだろうか。

東京都心に最も速く移動できるアクセス特急列車は,東京都心を目的地とする際に得られる利便が最大になるので,東京都心への利用者が中心となってくるだろう。ただし,アクセス特急列車は千葉ニュータウン区間に通過駅をもつので,その利用者はアクセス特急列車の停車駅に偏る。

アクセス特急の通過する駅でも利用できる対東京都心への移動に便利な特急列車は,千葉ニュータウン区間の各駅から満遍なく東京都心への利用者を乗せてくるだろう。もちろん,東京都心を目指さなくても特急列車は選択肢となり得るが,千葉ニュータウンの通勤志向は「千葉都民」…つまり東京都心が大半であるので,その絶対数からして特急列車の混雑傾向を形作るのは大多数の東京都心への利用者だろう。

特急列車と停車駅が同じ普通列車は新鎌ヶ谷から先も各駅に停まるため,東京都心への所要時間は相対的に長くなる。列車によっては後発の特急列車に追い抜かれるものもあるため,千葉ニュータウン区間から東京都心に移動する場合,普通列車を利用するメリットは少ない。

新鎌ヶ谷以南の特急通過駅から乗る,もしくはそれらを目的地として千葉ニュータウンから乗る,という利用形態こそ普通列車で想定されるところだ。加えて,新鎌ヶ谷や東松戸から他社線に乗り換える場合も普通列車が選択肢になり得る。対東京都心では特急列車と利便性に大きく差があるものの,これらの駅への移動に大きな差はない。

となると,新鎌ヶ谷以南の特急通過駅から都心志向の利用者が乗ってくるまでの間,普通列車の混雑傾向は特急列車と異なることになる。千葉ニュータウン区間の大半の利用者はアクセス特急列車や特急列車を選ぶので,相対的に普通列車は空いているだろう。また,東京都心よりも近距離の利用者が中心となるならば,降車駅の状況と連動して混雑する車両も異なる可能性がある。その性質は新鎌ヶ谷以南で都心志向の利用者が増えるにつれて薄まることも考えられる。

つまり,各列車の混雑傾向の差があるとすれば,それは利用者の差である。一律で求められる混雑率に対して列車ごと,車両ごとの乖離が最も顕著になるとすれば,その利用者の差が顕著になる西白井~新鎌ヶ谷間を調べることが有効だろうと考えた。

全体の混雑傾向

△西白井駅の公称・最混雑時間帯

調査対象とする列車は,西白井駅に掲示されている最混雑時間帯7:00~8:20を参考として,6:53発から8:01発までの上り列車11本を選定した。11本の内訳は,普通列車が7本,特急列車が4本である。列車はすべて8両編成で,普通列車は約10分に1本,特急列車は約20分に1本運転されている。なお,同時間帯に運転されるアクセス特急列車1本は除外した。

類似する研究事例では,乗務員室のモニタ表示器などに表示される混雑率を記録するといった手法が用いられているが,北総線で使用されているモニタ表示器の仕様上,この手法を用いることはできない。したがって,今回は各車両海側の側面を写真で記録し,窓から見える車内の様子を元に混雑を推定する手法を用いた。

これは混雑具合に応じて各車両に5段階の独自評価値を与えるものである。評価値の設定に際しては,まず対象となる車両のうち最も混んでいるものを5,最も空いているものを1とした。そして,車両の状況と車両定員から乗車人員を推定し,これに基づく混雑率を算出したところ,1の車両で40%,5の車両で120%と求められた。これをもとに2~4に相当する混雑率を決定し,それに応じた車内の状況と判断基準を定めた。

△北総線平日朝ラッシュ時の混雑傾向

その判断基準に沿って調査結果を分析すると上図のようになった。

対象とした各列車の評価値は全種別において7号車が最も高く,その平均は3.9を示した。3.7を示した4号車,3.5を示した5号車が次いで高く,一方で編成端の8号車は2.9,1号車は3.0と低い「中高端低」の傾向が現れた。

△西白井以北の各駅の階段位置は中央やや後方に偏る

この傾向は,西白井以東の各駅における階段最寄り車両の偏りによるものと推測される。

西白井~小室間の北総1期線3駅と千葉ニュータウン中央駅は2箇所の階段を有するが,開業時点ではホーム中央部の1箇所のみで,90年代後半に駅本屋の端に階段を増設した経緯がある。駅本屋はホーム中央部に位置することから,当初からの階段は4号車もしくは5号車を最寄りとしている。

しかも,橋上駅舎の駅本屋は西白井駅を除いて高砂寄りの端に自由通路を接続していることから,階段の増設位置は日医大寄りに限られ,7号車付近に増設階段が集中した。こうした経緯によって4,5,7号車付近に階段が集中し,混雑が偏る原因を作っているとみられる。

さらに,北総線の各駅で乗車人員が2番目に多い新鎌ヶ谷駅の階段最寄り位置が3号車と7号車であることも7号車の混雑を増長する要因とだろう。特に7号車最寄りの階段とともに設置されているエスカレータは下り運転で,降車客の集中しやすい設備があることも留意する必要がある。

列車ごとの混雑傾向

普通列車の場合

普通列車のみの場合も混雑の傾向は同様で,4,5,7号車が混んでいる。

新鎌ヶ谷駅の降車客に加えて武蔵野線と接続する東松戸駅も4,5号車付近に階段があることから,乗車駅と降車駅双方の影響を受けていると考えられる。

言い換えれば,乗車駅,降車駅ともに編成の前方に階段がある駅は少ないのだ。

これを示すかのように,確かに調査結果でも前方車両のほうが後方車両より空いている。千葉ニュータウン中央駅には空いている前方車両を利用するよう促す掲示が見られるが,図の表現は別としても前方車両が空いているということは事実である。

乗車駅と降車駅の階段位置の影響からか,普通列車の混雑傾向は編成中央と編成後方の2箇所に山があるということがわかった。

特急列車の場合

一方の特急列車は編成全体で高い値を記録した。車両別の評価値平均は8両全てで4.0を超えている。車両定員に対する混雑率に換算すると100%を超えていることになり,北総線の平均92%を上回っている。

細かくみていくと,4本目の712Tはやや空いているものの,2本目の730Nと3本目の732Nは特に混雑が激しい。両列車の日本橋着時刻はそれぞれ8:03と8:23で,都区内の企業の始業時刻からすると「ちょうどいい」時間帯に走っている。浅草線からの乗換えが必要な地域に通勤していても,1本目の626Nであれば間に合うのだろう。1本目は次点で混んでいる。

△普通列車のときは先頭付近はガラガラなのだ。でも特急は違う

特急列車の特徴としては,編成の端にも混雑の核が存在するという点だ。編成中央が混んでいるのはさることながら,1号車や8号車の評価値が5を示しているのだ。とくに3本目に関しては,編成前方の1,2号車に混雑の核が明確に確認できる。編成前方は空いているという普通列車の傾向は特急列車において当てはまっていない。

特急列車の混雑は,前方1号車,中央3~5号車,後方7,8号車の3箇所に山がある。谷となるのは2号車と6号車だ。

特急列車の乗車駅の環境は普通列車と同じである。混雑傾向が異なる要因は降車駅にあるのだろう。東松戸や新鎌ヶ谷の影響を強くうけた普通列車と異なる場所に核があるのだとすれば,それは両駅以外の影響…つまり東京都心,浅草線の影響といえよう。

浅草線内の駅を確認すると,たしかにホームの端に階段や出口のある駅が散見される。蔵前や浅草橋,東銀座,三田などが良い例だろう。これらの駅の影響を受けた結果,編成の前方や後方に混雑の核が生じるわけだ。

混雑はこれから

△人は確かに増えたよねぇ…

結局,北総線は空いているのか。

東西線や田園都市線など混雑率ランキングの上位を賑わす路線と比べれば,特急列車だろうと確かに空いている。

ところが92%という数字だけを信用して闇雲に乗ろうものなら,目的地への道半ば新鎌ヶ谷を前に120%という空間に放り込まれてしまう。なにせ今回の調査地点は92%という数字を出した新柴又よりも手前なのだ。

北総線は確かに空いている。しかし北総線だけでは東京都心に辿り着けないのだ。その間には京成線があり,東京都心に着くまでには京成線の混雑が加わってくる。東京都心に向けて列車はどんどんと旅客を乗せ,混雑は増していく。新鎌ヶ谷で120%の特急列車は押上に着くころ,どうなっているのだろう? 答えは聞くまでもないことだ。

△いっぱしの通勤路線らしくなったってことで肯定的に見ておくか…

そして,千葉ニュータウンのみならず北総線の沿線人口は増え続け,利用者もまた増え続けている。

ところが,朝ラッシュ時間帯の上り方面に運転される北総線の列車は増えていない。2001年9月,京成線八広駅の改良完成によって矢切止まりの列車1本が都心まで直通するようになったのが最後の増発である。

以来,京成線列車の名義で朝ラッシュ時間帯に1時間あたり1本のアクセス特急列車が増えたものの,北総線列車としての増発は18年間止まったままだ。

その中で沿線の人口は見る見る間に増えていく。列車の混雑も当然増していく。さあ,いつまで「空いている」と言えるだろうか。