京成・北総車の前面種別幕あれこれ

2016年9月11日公開・ 最終更新

前面種別表示器のあらまし

京成電車の前面種別表示の歴史は古く,前面窓下中央部に掲げられた種別板は,前面M側窓下に掲げられた方向板(行先表示板)とともに「京成電車の顔」を構成する大きな要素の一つであった。

種別板の掲出は戦後しばらくステーに直接差し込む方法を採り,例えば快速であれば楕円形,急行であれば逆台形のように様々な形状に切り取られた種別板をその都度差替えて使用していた。これらは方向板と同様に図形と内容を利用者にひも付けさせたが,一方で普通に対しては戦前期から伝統的に種別表示を行わなかった。その後1970年代に入ると,専用の枠をステーに予め取り付け,その中に複数枚の板を準備しておくことで,紙芝居的に表示を切り替える方式が採られるようになった。

また,1960年代末には3150形での現車試験を経て,3300形2次車より電動方向幕が装備されるようになり,車両前面に種別板以外の方法で種別を表示する車両が現れた。この時の前面方向幕は側面と同様に種別・行先を1台の巻取り機に分割表示する方式で,これは3500形に至るまでの十年あまり用いられた。しかし,電動方向幕による前面種別表示は従来の種別板を駆逐することはできず,むしろ電動方向幕を装備した車両に対しても前面に種別板を掲出するステーを設け,これらは種別板と電動方向幕を併用して運用された。

事態が大きく変わったのは1982年の3600形の登場であった。位置と寸法こそ3500形を踏襲したものの,貫通扉上の電動方向幕は行先の単独表示とされた。種別板は姿を消し,それまで種別板のあった位置に車内側から操作可能な手動種別方向幕が設置された。種別板に代わる存在として手動前面種別方向幕が台頭したのである。

このとき登場した手動の前面種別幕YA-5686は当時更新・冷房改造の進んでいた3100形や3200形,3300形といった赤電系列にも取り付けられ,貫通扉下の種別幕,貫通扉上の行先幕といった新たな京成電車の顔を作る要素として定着していった。

また,1990年には3300形の更新が進むなかで,AE100形用YA-89154で用いられたフォトインタラプタとシリアル通信が取り入れられた新たな方向幕表示器が開発され,3300形の更新途中から採用された。このときは側面用YA-90199と前面行先用YA-90200の2機種で,前面種別表示器は依然として手動のYA-5686が用いられた。しかし,1990年度末にシステム面の刷新を図った完全新車の3700形が登場すると,前面種別表示器も電動化が図られ,先行2機種の仕様を踏襲した前面電動種別方向幕YA-90221が導入された。

これ以降,京成電車の前面種別表示器は電動のYA-90221と手動のYA-5686の2機種が用いられるようになった。両者の違いは電動か否かという点に限られ,使用する方向幕は共通とされた。ゆえに,フォトインタラプタによる検知を目的とした字幕右端の黒いコード部分はYA-5686用の字幕にも印刷されていたし,そればかりか字幕の発注はYA-90221扱いに統一された。なお,YA-90221はその後の導入車両の標準装備とされ,3400形や3500形の更新に際してもこの機種が採用された。

1970年代の方向幕・種別板併用期,1980年代の手動YA-5686期,1990年代のYA-90221期と10年スパンで変化してきた京成電車の前面種別表示だったが,2002年度末に導入された3000形では,初期の方向幕車両のように種別と行先を1台の表示器に表示する方式が採られた。これにより3600形以来続いた前面種別表示器は廃止され,さらに言えば3500形以前からの独立した前面種別表示は完全に消滅した。

前面種別幕あれこれ

太字幕:1990年度印刷幕(NT41:北総7300形用・04年度快特対応済)

1990年度のYA-90221導入に伴って印刷された字幕である。配列そのものは1985年度の通勤特急運転開始時から変わっていないと思われ,右端に検知コードが印刷された以外の差異はないだろう。

配列は基準以下に通勤特急,特急,急行,普通と1985年時点で運行されていた諸種別を速達順に並べ,続けて回送,試運転,臨時を収録した。なお,この字幕が印刷された1991年の時点で通勤特急と特急の停車駅は同一となっていたが,特急より通勤特急が上に来ているのは,特急が(曳舟・立石・)小岩・東中山に停車していた時代の名残である。

この字幕は京成車用は勿論のことながら,3700形と同一設計で導入された北総7300形用にも刷られ,京成・北総の2社で共通の字幕が用いられた。両者の字幕はしばらく共通であったが,1998年のエアポート特急・エアポート快特の運転開始に伴い,京成車用の字幕に対し両種別のシール追加がなされたことで,両者に明確な差異が発生した。この追加措置は,3700形・3400形等の京急線直通対応車両については9コマ目にエアポート快特,10コマ目にエアポート特急を追加したのに対し,京急線直通対象外とされた3200形や3600形といった車両には,自社線内で使用するエアポート特急のみの追加に留められ,エアポート快特が入るはずの9コマ目は空白のまま残された。

北総車用の字幕は,1995年以降後継の英字入り字幕が登場したことから,劣化によって後継字幕に交換されることで次第に数を減らした。しかし完全な淘汰には至らず,残存していた字幕には2004年の北総車快特運転開始に伴って9コマ目に快特の表示が追加された。

京成・北総のいずれの字幕も2000年代までその姿を見ることが出来たが,京成車は2002年のダイヤ改正で快速を含む字幕に一斉交換したため,同年度中に淘汰された。北総車用は末期には7300形の1箇所のみ(編成と車両は転々としていた)に残存していたが,2008年度に7308編成が表示器のLED化を施工したことで余剰となり,これによって完全な淘汰がなされた(最後は7308号車に装填)。なお,3668編成の中間に含まれる先頭車には改造前に用いられていたこの字幕が残存しているが,営業時にその内容を伺うことはできない。

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△1.基準

2.通勤特急

△2.通勤特急


3.特急

△3.特急

4.急行

△4.急行


5.普通

△5.普通

6.回

△6.回


7.試

△7.試

8.臨

△8.臨


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△9:快特

10:空白


旧細字幕:1993年度印刷幕(京成車汎用…北総7300形用NT50相当)

行先幕と同様に営業種別全てに英字を入れたもので,1993年度の3418編成より導入された。

太字幕からの変更点は,日本語書体のウエイトを細くしたこと,英字書体の書体をゴシック系とし,全て大文字表記であったものを単語の先頭のみ大文字にしたことの2点である。つまり,変更点はデザイン上のものに限定され,配列は太字幕との混用を考慮し一切変更されなかった。ゆえに,その運用は太字幕と共通化され,劣化により太字幕と細字幕が相互に交換されることも少なくなかった。

長らく京成車用のみの存在であり,改修は太字幕同様に1998年度のエアポート特急・エアポート快特対応だけだった。その後,2001年に北総車用の細字幕が登場し,7300形で使用されるようになった。翌2002年には後継の快速入り字幕が登場したことから,京成車からは完全に淘汰されるも,北総車用は2004年に快特を9コマ目に追加して継続使用された。北総車からの淘汰は2010年のエアポート急行対応によるもので,7318編成に残っていた当該字幕が新字幕に置き換わることで淘汰された。

1.基準

△1.基準

2.通勤特急

△2.通勤特急


3.特急

△3.特急

4.急行

△4.急行


5.普通

△5.普通

6.回

△6.回


7.試

△7.試

8.臨

△8.臨


10.士特急

△10.エ特急

9.空白(車両によってはエアポート快特)


新細字幕:2002年度印刷幕(NT71:北総7260形用・03年度快特対応済み)

2002年のダイヤ改正に備え,3500形未更新車を除く京成車全車両を対象に装填された字幕である。それまでの太字幕・旧細字幕を淘汰し,複数形態が混在していた京成車種別幕の統一を成し遂げた。

基本的なデザインは旧細字幕を踏襲しているものの,急行の文字色が青から水色に変更された。これはこの時から側面方向幕の考え方が変わったからである。従前の側面種別幕は全ての表示が青地で,優等列車の一部(通勤特急,特急,急行)を赤文字で記すというものであった(普通や回送のほか,一部字幕に残っていた快速・準急・通勤急行は白文字)。しかし,2002年の改正以降において種別体系が複雑化することから,種別それぞれに色を割り当て,その色を地色とした多色刷りの側面種別幕が導入されることになった。種別に色を割り当てる方法はそれまでも前面種別幕の文字色で用いられてきたが,あくまで前面は独立した表示だったため,どの色であろうと問題はなかった。しかし,側面方向幕においては種別と行先が隣り合って表示されるため,青地の行先幕に対して青地の種別色では色の差がなく,種別色の意味をなさないことが懸念された。よって,それまで青色を種別色としていた急行は,行先幕との色の差を明確化する目的から種別色を水色に変更されたのである。これを受けて,前面種別幕においても水色に文字色が変更された。

また,それまで10コマの上限いっぱいまで使用していた前面種別幕に対して,快速・エアポート快速の2種別が新たに追加されたことから,本字幕からは種別幕を12コマに増やす対応が採られた。配列も大きく変更され,基準以下には特急,エアポート特急の2種別が続き,回送,臨時,試運転の3種別を挟んで,急行,エアポート快特,エアポート快速…と収録された。かつての速達順配列は姿を消し,一見するとランダムな種別配列に改められた。なお,2002年10月のダイヤ改正でエアポート特急の廃止が決定していたものの,改正に先立つ2002年6月頃より本字幕を使用していたことから,改正を見込んで印刷した本字幕においてもエアポート特急の表示が収録された。当然,改正以降はエアポート特急表示を出す機会はなく,僅か数ヶ月で用途を失った。

このほかにも,1985年の通勤特急運転開始時にデザインされた青線入りの通勤特急表示はこの時からオレンジ文字の表示とされ,他種別と同じデザインとなるなどの変更点があった。

その後,2003年には快特表示のシール追加が施工された。前年に字幕を刷ったばかりであることから,新たに13コマの字幕を作ることはされず,唯一の空白状態だった基準位置に快特をシール追加して対応した。これにより京成車の種別幕から空白表示はなくなり,全てのコマに表示が入った。

この字幕は京成車用のみ印刷され,以降北総車と京成車の種別幕は別々の配列で発注されるようになった。しかし,2002年度以降この字幕を装備した京成車両が北総へリースされるようになったことで,京成車用の字幕が北総車でも見られるようになった。いずれも2010年のエアポート急行対応において発注された新字幕に取って代わられ,同年中に淘汰された。

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△1.快特

2.特急

△2.特急


3.士特急

△3.エ特急

4.回

△4.回


5.臨

△5.臨

6.試

△6.試


7.急行

△7.急行

8.士快特

△8.エ快特


9.士快速

△9.エ快速

10.通勤特急

△10.通勤特急


11.快速

△11.快速

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△12.普通


色地字幕:2010年度印刷幕(KT60:京成車汎用)

京急蒲田駅高架化,成田スカイアクセス線開業,羽田国際線開業と年に3度のダイヤ改定を行なった2010年は京成車・北総車ともに新たな種別幕へ交換する契機となった。

成田スカイアクセス線については入線車両が限られることから,対象外となる方向幕車両への改修は行われなかったものの,同線開業の2ヶ月前に実施された京急蒲田駅高架化に伴うダイヤ改定では,従来京急線内に設定されていた急行がエアポート急行として見直されたため,京急線内に直通する各車両において当該表示の整備が必要となった。京急線直通対象外の車両においては既存種別幕で十分対応可能だったものの,かねてより旅客案内上快速と混同されがちだった京成線内の快特を「快速特急」に改称する都合から,LED表示器車両に対する視認性向上対策(文字の周囲に非点灯ドットを設け,地色と文字の明確化を図った)に併せるかたちで,方向幕車両も全車両を対象として視認性を向上させた改称対応の本字幕への交換を実施した。

2010年4月末より導入された新種別幕は,従来の種別幕の文字配置こそ踏襲したものの,地色と文字色を反転させ,フルカラーLED表示器車両に近似した表示とされた。交換は編成単位で行われたものの,当時8両編成4本の陣容に再編成が進んでいた3500形更新車については4両ごとの交換であったことから,前後編成で新旧種別幕の混用もみられた。このため,配列は2002年度のものを踏襲し,使用実態のない3コマ目のエアポート特急をエアポート急行に置換えただけの変更点に留められた。しかし,本字幕への統一はエアポート急行の運転の始まった2010年5月改正には間に合わず,5月改正時点では表示の有無に関わらず従来の急行表示を代用して対応した。

本字幕は当時最古参だった3300形を含めた京成車全車両に装填されたが,北総車においては独自に制作した字幕を装填したため,この字幕は京成車専用で用いられた。その後,2012年のダイヤ改正を機にエアポート快特の種別色がオレンジに変更され,これに際してエアポート快特のコマをオレンジ地とした新字幕が用意された。新字幕はエアポート快特に定期運用をもっていた3400形・3500形更新車のみに装填され,それ以外の車両は本字幕のまま用いられた。また,3400形・3500形更新車から捻出された本字幕は経年が浅く,状態が良かったことから,少数派の異なる検知方式ゆえ長らく種別幕を印刷していなかった3500形未更新車用に改造の上転用された。

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△1.快速特急

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△2.特急


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△3.エ急行

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△4.回


5.臨

△5.臨

6.試

△6.試


7.急行

△7.急行

8.エアポート快特

△8.エ快特


9.エアポート快速

△9.エ快速

10.通勤特急

△10.通勤特急


11.快速

△11.快速

12.普通

△12.普通