2012年5月9日公開・ 最終更新
歴代機種一覧
単能機・多能機(初代・日本信号)
1979年の北総1期線の開業時に導入された機器である。日本信号製。1977年に定められた「駅業務集中化方式」をもとにデザイン・ポリシー研究会でデザインが検討されたもので,外観は「入口系は緑」という約束色の概念に基いて緑色を採用している。これが今日までの券売機の配色の原点である。
紙幣は使用できず,硬貨を100円・50円・10円の3種類別々に設けられた投入口から投入する。投入された硬貨は投入口下部にある覗き窓に見ることができ,覗き窓から枚数を数えることができる設計だった。印字は感熱ドット方式で,文字はやや荒くドットが判別できた。切符1枚あたりの発券時間はカタログスペックで3.5秒という。
当初の券売機には大きく分けて新京成線区間用と北総線区間用があり,このうち北総線区間用は運賃区別の単能機で,新京成線区間用は連絡範囲の運賃区を選択して購入できる多能機とされた。各駅にはそれぞれ2台が用意され,おおむね上部の運賃表と対応するように配置されていた。また,このほか千円札からの両替機も券売機と同様の意匠で設けられた。そのため多い駅では8台もの券売機が並び,いまも1期線区間の出札所の広さにその名残を伝えている。なお,これらの機器を出口側へ5度傾けた鋸刃状に設置する案も検討されたが,実現しなかった。
単能機を導入した理由については,後の業界誌において鉄道部運輸課の滝田課長(当時。鉄道部運輸課は現在の運輸部にあたる)が以下のように述べており,能率を重視した旨が語られている。
開業前に,どのようにしたらお客さまは喜ぶか,私どもなりに考えたのち,当初単発を入れたのです,能率がいいだろうと。つまり多能機ですと,どこをセットしたら自分の行くところが買えるのかがわからないんですね。それで単発を入れて,つまり運賃区間ごとの機械をつくりました。
(滝田二郎ほか(1989)「座談会・新しい駅の姿を追い求めて」,『運転協会誌』1989年5月号)
また,先の「駅業務集中化方式」においては,単能機の導入について以下のようにも記していて,運用上の効率化も視野に入れていたことが分かる。
運賃改訂時は最高額または最低額の機械を予め設置し改訂当日不要になった低額または高額用の機械を撤去する。従って改訂前日は,機番の変更と区間別運賃一覧表(地図式)の書替えを行うのみでよい。
(北総開発鉄道(1977)「駅業務集中化方式(案)」)
いくつかの新たな試みを盛り込んで導入された自動券売機だったが,自動券売機自体はすでに都市圏の鉄道事業者で導入が進んでいたこともあり,当時はまだ珍しかった駅業務の機械化を説明するパンフレット『北総線について』には紹介されなかった。ちなみに,この頃の自動券売機は回数乗車券の発売に非対応で,普通乗車券の発売に限られていた。回数乗車券は西白井にあった定期券発売所で発売しており,回数券発行機で磁気エンコード済の券片(エドモンソン券)を出していた。先の『北総線について』には回数乗車券の発売に関する説明は掲載されている。
後年には,稼働頻度の低い北総線区間用の単能機が各区1台に削減されたほか,削減された単能機の一部は公団線開業に際して同線連絡用に転用された。
公団線多能機(東芝)
公団1期線小室・千葉ニュータウン中央間の開業に際して1983年度に導入された公団仕様の自動券売機である。東芝製。
公団は鉄道の現場業務を北総開発鉄道に委託する方針をとり,基本的な設備方針は先に開業した北総線に倣っていた。すなわち駅業務においては,北総開発鉄道と同様に積極的な営業機器の採用による機械化と省力化を図る方針をとった。ところがその設備仕様は公団独自のもので,自動券売機においては,日本信号製の単能機を採用した北総開発鉄道と異なり,東芝製の多能機が採用された。この東芝製多能機は公団線の駅に対してのみ導入されたため,導入は千葉ニュータウン中央駅における3台のみで,小室駅は北総開発鉄道の単能機を公団線用に改修して運用された。
東芝製多能機では,普通乗車券のほか回数乗車券や入場券の購入ができた。普通乗車券は公団線の自社線に限らず,北総線及び新京成線の連絡範囲に対しても購入可能で,後の自動券売機と異なり自社線と連絡会社線の切替操作は不要だった。回数乗車券は自社線内の普通回数乗車券を発売するのみで,連絡会社線発着の回数乗車券の発売は定期券発売所扱いとされた。硬貨に加えて紙幣にも対応したことで,紙幣のまま普通乗車券の購入ができるようになった。また,当時導入されてまもない500円硬貨も使用することができた。印字は感熱式だが,先の北総線の券売機よりも印字の解像度は高い。このほか,インターホンによる通話機能も有していた。
なお,北総線開業時に『北総線について』と題して営業機器の利用方を周知しているが,公団線においても『千葉ニュータウン中央駅自動出改札システムのご案内』と題したパンフレットを作成し,同様の案内を周知している。『北総線について』では自動券売機に関する説明は割愛されているが,公団線のパンフレットでは詳細な説明が掲載されている。
多能機(2代・日本信号)
北総1期線区間の開業時に導入した単能機の代替として1984年度から導入された機種である。能率を考えて導入した単能機だったが,利用頻度が低く維持には苦労した模様だ。先の滝田課長が当時の業界誌で述べた内容を以下に紹介する。
私どもも券売機をつけておったのですが,使いにくいという投書がございましてね。千葉ニュータウンの場合は,平均年齢が30代後半から40代ぐらいの人が圧倒的で,慣れは早いのですけれども,元からいらっしゃる住民の方には,最初だいぶこごとをいただきましたね,使い方がわからないと。(中略)
ところが,ふたをあけましたら,閑古鳥が鳴くようなかっこうで,機械は遊ぶわ,そのうちに劣化はするわ,結局,多能機を入れるというかっこうになっております。
(滝田二郎ほか(1989)「座談会・新しい駅の姿を追い求めて」,『運転協会誌』1989年5月号)
この多能機に関する資料はほとんど残っていないが,1984年度の都市交通年報において1985年3月に「新式多能型自動券売機」を各駅に1台導入した旨が記されており,滝田課長の言及する多能機への代替を指していると考えられる。
多能機(3代・日本信号)
1991年の2期区間開業時には別の多能機が各駅に導入された。自社線に加え,直通運転と連絡運輸をしていた京成・都営・京急・新京成の各線連絡乗車券の出札に対応する券売機である。
紙幣は1000円札のみ対応する。回数乗車券の発売に対応した機種が設定され,回数券対応機と非対応機があった(当初は原則として各駅に対応機1台,非対応機1台を配置)。回数券対応機は普通回数券のみ発売可能で,当時すでに発売されていた昼間割引回数券(お買物回数券)は改札窓口でしか買えなかった。また,カードに対応するユニットは入っていない。
接客部のデザインは従来からの配色を踏襲しながらも,路線ごとに色を割当てる考え方が導入された。色の割当ては,北総は白,京成はオレンジ,都営は黄色,京急は青,新京成は黄緑であった。
パスネット導入に際して回数券非対応機がSX-5で代替され,引続き残存した回数券対応機もパスモ対応の際にMX-7を導入したことで代替が進んだ。最後は新鎌ヶ谷に残っていたが,2009年度に淘汰された。
多能機(4代・日本信号)
前項の多能機のうち回数券非対応機を代替し,回数券対応機の配置を拡大するために1996年度より導入された。末期には矢切や白井など限られた駅にのみ配置があった。
接客部は自動券売機としては北総初の傾斜式で,操作性が大幅に向上している。さらに,5000円,10000円札の高額紙幣への対応も北総初であった。通常時は上部の液晶ディスプレイに発売可能な券種が表示される。
MX-7の導入によって2009年度までに置換えられ,現存しない。
SFカード対応機(日本信号SX-5)
パスネットの導入に際して2000年頃から各駅へ設置された機種。前項の新多能機と同様に,多能機のうち回数券非対応機を代替したが,一部の駅では利用者の増加にあわせて純増となった駅もあった。また,印西牧の原駅開業まで東芝製券売機を使用してきた公団線各駅は,印旛日本医大駅開業後にこの機種へ統一された。機番は1から順に振られていた。
接客部の外観こそ新多機能機に類似した傾斜式だが,機能は大きく向上した。SFカード対応ユニットの追加,土休日回数券や昼間回数券への対応,複数枚発売時の大人小人の組合せ発売機能などが追加され,後には2000円札にも対応した。
乗車券への磁気エンコード方式は,新京成以外がF2F,新京成線連絡がNRZ-1だった。なお新京成線では,2013年度の改修によって新鎌ヶ谷駅乗換改札以外の改札機(新京成所有のオムロン機)でNRZ-1方式の乗車券に非対応となったため,以降SX-5は全機で新京成線連絡券の発売を停止した。この措置は同年度末までにMX-8券売機を導入してSX-5を置き換える前提で行われ,新京成線連絡券の発売停止からまもない2014年3月をもって淘汰された。
マルチ券売機(日本信号MX-7)
2006年度末のICカード乗車券・パスモの導入に際しては,各駅に交通系ICカードに対応する営業機器が必要となった。自動券売機においてはパスモ導入と同時の対応が間に合わず,日本信号製のチャージ機CH-7iの導入で暫定的な対応を行った。そしてICカードに対応する自動券売機として2007年度末から導入されたのが,北総線初の「マルチ券売機」ことMX-7だった。
MX-7には,SX-5からの追加機能として交通系ICカード対応機能,定期券発行機能が備えられた。北総線での導入開始時点でSFカードシステム・パスネットはサービス終了に向けて規模を縮小している最中で,北総の導入したMX-7はSFカード対応ユニットを省略した仕様とされた。一方で京成の導入した同機種はSFカードに対応しており,成田スカイアクセス線開業後に印旛日本医大駅へ設置されたアクセス線券売機(京成所有の51号機)にはパスネットの標記があった。
外観上の特徴としては,大型のカラーLCDタッチパネルを接客部・係員操作部ともに装備していることが挙げられる。化粧パネルはSX-5以前の黄緑色から青色に変わったが,これは定期券発行機能の有無を示すものである。2011年度以降にSX-5の意匠を踏襲した黄緑色の化粧パネルのMX-7が導入されたが,このMX-7の定期券発行機能は通常は使用停止設定になっている。なお,日本信号によると定期券発行ユニットを持たない機種はSX-7として別の型番が与えられているが,北総においてSX-7は導入されなかった。前述の黄緑色のMX-7は,あくまで定期券発行機能を使用停止設定にしている状態で,処理部は青色のMX-7同様に実装されている。これは定期券発売の繁忙期に黄緑色のMX-7に対しても定期券発行機能が開放されることで確認できる。また,青色から黄緑色に改修されることもあり,2014年度に券売機台数を削減した白井と西白井では青色のMX-7を黄緑色に変更している(既存の青色のMX-7から定期券機能をオフにして黄緑化→定期券非対応のSX-5を玉突き代替)。
この機種から使用する券紙ロールが30mm幅から57.5mm幅に変わり,カット方向も従来の縦切りから横切りになった。また,設定した時刻になると自動的に連絡乗車券など指定した機能の設定を切入することができる機能もある。機番は35から順に振られているが,新規に導入された黄緑色のMX-7は+10した機番で区別される。
導入当初の接客部のUIは初期画面で乗車券の着駅の路線を選ぶ構成だったが,2013年度末のソフト改修によって北総線及び成田スカイアクセス線の各駅と羽田空港2駅は初期画面から購入できるようにUIが変更された。
後継機への代替は2018年度から開始され,MX-8への代替及び台数削減によって翌2019年度までに淘汰された。
マルチ券売機(日本信号MX-8・2013年度導入分)
2013年度から導入された新型マルチ券売機で,MX-7の後継機種にあたる。
MX-7からの変更点として,接客部においては硬貨投入口やテンキーの構造が改良されたほか,ICカード処理のレスポンスも高速化している。接客部の上部パネルにはカメラが設けられ,防犯対策も向上した。
2013年度の第1次導入当初においては全機が青色の定期券発売機として設定され,SX-5の代替として矢切,西白井,白井以外の各駅に1台が配置された(これら3駅はSX-5の撤去のみ行われ,券売機は純減となった)。機番はMX-7と異なり01から振られている。
2018年度にはMX-7の代替に伴う第2次導入が始まった。第2次導入では,原則として新しく導入する機器を定期券発売機としたことから,第1次導入時に定期券発売機であったMX-8は定期券非発売機に改修された。非発売機に改修されたのは,新柴又,北国分,秋山,松飛台,大町,小室,印西牧の原の計7機。
非発売機については,改修当初は従来の考え方と同じく定期券発売機能を使用停止にしているだけだったが,2020年度のクレジットカード使用可能ブランド拡大によるソフトウェア改修により定期券発売機能は完全に使用できなくなった(接客部の画面に非活性状態のボタンが描画されなくなっている)。
また,第2次導入にあわせて接客部の上部パネルは北総ロゴマークなどを配置した新たな意匠に変更された。この意匠は第1次導入分のMX-8にも前述の改修にあわせて適用されている。
マルチ券売機(日本信号MX-8・2018年度以降導入分)
MX-7の代替に際して2018年度から導入されたMX-8は,2013年度の第1次導入分から改良が加えられたマイナーチェンジ機である。第1次導入分との外観上の主な相違点は以下の通りである。
- 上部パネルの意匠変更(北総ロゴの追加)
- 上部パネル「発売中」表示への「AVAILABLE」英文表示の追加
- 上部パネルへの後方確認用のミラーの追加
- レジ部テンキーにおけるキートップの大型化
レジ部に搭載されているICカードユニットは2017年度末に導入した精算機AX-8と同様に全国交通系ICカード相互利用に対応したものであるが,接続する上位機器の都合か2018年度末時点では従来どおりパスモ・スイカのみ対応に留められている。このほか,釣り銭など各種ユニットの構造が変更されているようで,動作音が従来のMX-8と異なる。
内部ソフトウェアも従来機と異なっていて,2019年度の消費税増税に伴うソフトウェア改修まではICカード利用履歴の印字が第1次導入分の機種と異なっていた。また,2020年度にクレジットカードの利用ブランド拡大が行われた際には,第2次導入分の機種に限って対応ソフトウェアが適用され,第1次導入分の機種は定期券発行機能を使用できなくした別のソフトウェアが適用された。
券売機の機番は従来機と異なり,代替前のMX-7に設定されていた機番を踏襲している(代替前が35号機だった箇所は代替後も35号機を名乗っている)。
新京成マルチ券売機(オムロンV7)
2013年度に新鎌ヶ谷駅に設置された新京成所有のマルチ券売機である。もと薬園台駅3号機で,2013年4月1日から2019年6月15日まで新鎌ヶ谷駅1号機として稼働していた。北総線の駅における唯一のオムロン製券売機だった。
1992年7月に開業した新京成線新鎌ヶ谷駅は,暫定的な措置として北総に駅業務を委託する方針がとられたことから,新京成線の乗車券類は北総線の自動券売機で発売してきた。2002年10月には北総線の定期券発売所が西白井駅から移転して開設されるが,新京成線の定期券発売所ではないため,同線の定期券は新鎌ヶ谷駅では購入できなかった。後に新京成線各駅に定期券発売可能なマルチ券売機が配置されるようになっても新鎌ヶ谷駅は設置対象外とされ,新京成線の定期券は他駅で購入するほかなかった。
この問題への対応として2013年4月に設置されたのが本件券売機で,もっぱら定期券発売を目的として設置されたことから,通常時は定期券発売機能とICカードのチャージ機能に限って使用可能な設定で運用された。このほか,新京成線では障がい者割引乗車券を係員操作により券売機で発売していたことから,当該乗車券類についても本件券売機で発売する運用とされた。障がい者割引乗車券の発売時においては,いったん普通乗車券を発売可能な設定に切替していたため,これを発売停止状態に戻し忘れると本件券売機で新鎌ヶ谷発着の普通乗車券が購入できた。
2019年6月15日終車をもって同駅への新京成線駅業務委託が終了したため,本件券売機は撤去された。
京成ライナー券売機(高見沢VTQ)
2022年度に新鎌ヶ谷駅に設置された京成所有のライナー券売機である。2022年11月のダイヤ改正でスカイライナーの新鎌ヶ谷駅停車便が設定されることにあわせ,2022年11月26日より使用を開始した。北総線の駅における唯一の高見沢サイバネティックス製券売機であり,これは他の営業機器を含めても唯一である。
ライナー券売機はラチ内コンコースの終点方側ホーム階段横に設置され,上りホーム側に91号機,下りホーム側に92号機の計2台が運用されている。上りホーム側は上り列車,下りホーム側は下り列車に対するライナー券の発売に用いられる。なお,上りホーム側の券売機は2012年3月まで新京成線との乗継精算機(64号機,65号機)が置かれていた場所にあり,電源や通信線の配線は以前の乗継精算機で使用していたものを再利用している。ライナー券売機自体も京成線内の他駅で使用していたものを移設しており,銘板によれば91号機が2019年3月製,92号機が2020年1月製の打刻である。
運用方としては新鎌ヶ谷駅発のスカイライナーに対するライナー券発売を主としており,乗車券の購入やICカードのチャージには使用できない。