2020年6月14日公開・ 最終更新

記録:青砥駅構内脱線事故

思うところはあるが,ひとまず現状を把握して向き合っていくため整理をしておく。

このページの内容は報道や公開文献をもとに独自に整理したものであり,事実と異なる解釈が含まれている可能性がある。また,実施基準や車両諸元は関係当局からの開示を受けて記載しているが,内規については確認の術がないため,記していない。

加えて,運転整理の過程で○○が△△に入線しただとか,○○行が走っただとか,そういう事柄を紹介するつもりは毛頭ない。

1.概要

  1. 事故種別:列車脱線事故
  2. 発生日時:2020年6月12日(金)10時15分頃(天候:曇)
  3. 発生区間:京成本線 青砥駅構内
  4. 関係列車:第1022N列車 京成高砂発羽田空港行普通列車
    北総鉄道所属 7800形車両 8両編成
    (南方)7818-7817-7816-7815-7814-7813-7812-7811(北方)
    斜体部7号車第2台車全2軸が山側に約20cm脱線した
  5. 負傷者等:なし
  6. 発生原因:運輸安全委員会により調査中

2.発生概況

京成高砂発羽田空港行普通列車である第1022N列車は,2020年6月12日10時14分,京成高砂駅を1分延にて発車した。本件列車は京成本線上り外線を走行し,青砥駅1番線に入線中,異常を認めたため,10時15分頃,非常停止手配により停止した。その後,7号車第2台車の全2軸が山側に約20cm脱線していたことが認められた。乗客および乗務員に負傷者はいなかった。

3.発生時の状況

  1. 本件列車は青砥駅1番線に約100m進入して停車した。
  2. 本件列車7号車第2台車全2軸が山側に約20cm脱線していた。
  3. 本件列車7号車第2台車山側の側はりに亀裂と塑性変形が認められた。
  4. 本件列車7号車第2台車山側の板ばねに折損が認められた。
  5. 本件列車7号車第3軸・第4軸の車輪海側に擦過痕が認められた。
  6. 本件列車7号車第2位の集電装置ならびに付属装置の落失が認められた。落失した該集電装置と付属装置は,付近の電車線路ならびに8号車屋根上等で確認された。
  7. 上り外線のマクラギに車輪が接触したとみられる擦過痕が認められた。
  8. 上り外線から青砥駅1番線に至る電車線路の一部に本件事故によるものとみられる垂下が認められた。
  9. 青砥駅構内23イ号分岐器のトングレール,リードレールほかに本件事故によるものとみられる狂い,損傷が認められた。

4.時系列

6月12日(金)

脱線した本件列車(提供:げんこつ氏)

△脱線した本件列車(提供:げんこつ氏)

切り離された6号車(提供:げんこつ氏)

△切り離された6号車(提供:げんこつ氏)

6月13日(土)

6月14日(日)

6月19日(金)

6月20日(土)

5.情報

5-1.車両について

5-1-1.車両諸元

FS-547台車(写真は7302号車第2台車の山側)

△FS-547台車(写真は7302号車第2台車の山側)

  1. 車  種     :普通鉄道旅客車 直流電車(DC1500V)
  2. 車両形式     :7800形
  3. 編成両数     :8両
  4. 編成定員     :1,068名(うち座席定員430名)
  5. 台車中心間距離  :12,000mm
  6. 連結器間距離   :18,000mm
  7. 本件車両の車両番号:7812(7号車)
  8. 本件車両の車種  :電動車(M1)
  9. 本件車両の記号番号:7817-1
  10. 本件車両の空車重量:34.0t
  11. 本件車両のしゅん功:1995年2月
  12. 本件台車の形式  :FS-547(住友金属工業)
  13. 車体支持装置   :ボルスタ付空気ばね台車
  14. 軸箱支持方式   :片板ばね式(S型ミンデン)
  15. 軸  距     :2,100mm
  16. 車輪踏面形状   :円錐踏面
  17. 車輪フランジ角度 :69.3度
  18. 車両編成     :(南方)7818-7817-7816-7815-7814-7813-7812-7811(北方)
    本編成は,1995年2月に京成電鉄の車両としてしゅん功し,2015年3月に北総鉄道が京成電鉄より借入れ,北総鉄道所属車両となったものである。

5-1-2.車両の検査

  1. 北総鉄道では,届出実施基準である車両整備実施基準において,車両の検査について,列車検査,月検査(状態・機能検査),重要部検査,全般検査の各種類を定めている。このうち,月検査,重要部検査,全般検査は定期検査として実施されている。
  2. 北総鉄道の車両整備実施基準において,検査は次のように定められている。

    (列車の検査)
    第10条 車両の使用状況に応じ,10日を超えない範囲で,消耗品及び主要部分の機能について在姿で検査を行うものとする。
    (月検査)
    第12条 車両の使用状況に応じ,3月を超えない期間ごとに電車の状態及び機能について在姿状態で定期検査を行うものとする。
    (重要部検査)
    第13条 車両の使用状況に応じ,4年又は当該車両の走行距離が60万キロメートルを超えない期間のいずれか短い期間ごとに動力発生装置,走行装置,ブレーキ装置等重要な装置の主要部分について定期検査を行うものとする。
    (全般検査)
    第14条 車両の使用状況に応じ,8年を超えない期間ごとに,動力発生装置,走行装置,ブレーキ装置,車体,その他車両装備品等の電車全般について定期検査を行うものとする。

  3. 北総鉄道は,列車検査ならびに月検査に限り自社で実施している。重要部検査ならびに全般検査の実施は京成電鉄に委託している。
  4. 本件車両の検査等履歴は次の通りである。
    新  製:1995年2月6日
    全般検査:2016年12月2日
    月検査 :2020年4月7日

5-1-3.台車・輪軸について

重要部検査実施時のFS-547台車の台車枠(写真は9100形車両のもの)

△重要部検査実施時のFS-547台車の台車枠(写真は9100形車両のもの)

  1. 北総鉄道では,車両整備実施基準において,台車枠の探傷を重要部検査,全般検査およびその他必要のあるときに行うことを定めている。
  2. 台車枠の探傷方法などは同社内規の探傷検査手順書によって定められている。
  3. 台車の検査については,車両整備実施基準において,個々の検査における検査項目と方法を第1号表から第3号表に定めている。
  4. 台車枠については,列車検査および月検査では亀裂等の状況を確認することとされている。台車枠の分解は,重要部検査および全般検査で行われ,亀裂及び腐食等の状況は磁粉探傷検査によって行われることとされている。
  5. 静止輪重比の管理は,重要部検査,全般検査およびその他必要のあるときに行い,平均輪重との差が10%以内とすることとされている。
  6. 本件車両と同型の台車(FS-547型式)は,北総鉄道の54両(108台),京成電鉄の48両(96台)の車両で使用されている(本件編成を含む)。
  7. 本件車両の踏面形状は「一号線直通車両規格」ならびに「一号線直通車両の申し合わせ事項」に定められた標準踏面形状によるものである。

5-2.考え方

5-2-1.実施基準について

鉄道営業法第1条により,技術基準「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(以下,技術基準省令)が定められている。技術基準は,すべての鉄道事業者が技術力の差,経営状況等にかかわらず遵守すべき,鉄道施設及び車両の構造,維持管理並びに運転取扱いの基準として,社会的に求められる一定の水準を国が示し,鉄道事業者がこれを遵守することにより鉄道の安全等を確保することを目的としたものである。これを踏まえて,鉄道事業者が個々の環境に応じて定めたものが実施基準である。

5-2-2.車両管理業務の受委託と責任について

  1. 鉄道事業法第25条において,列車の運行の管理等の鉄道事業に係る業務の管理の委託及び受託については,国土交通大臣の許可が必要であると定められている。車両の保守の管理は,鉄道事業法施行規則第38条により,鉄道事業法第25条に定められた管理の受委託に含まれるとされている。
  2. 旧「鉄道運転規則」において,車両の検査および試運転は,当該車両の所属する事業を経営する者が行うものとされていた。
  3. 技術基準省令の解説事項では,業務の委託をしたからといって責任を免除されることにはならず,すなわち鉄道事業に係る業務の管理は鉄道事業者自らの責任において行うべき事柄であるとされている。

5-2-3.台車の検査について

  1. 技術基準省令第90条では,施設および車両の定期検査について,その種類,構造その他使用状況に応じて,検査周期や対象部位,方法を定めることとされている。
  2. 技術基準省令第90条2項の規定により定められた「施設及び車両の定期検査に関する告示」の解釈基準において,重要部検査及び全般検査の出場時には車両の静止輪重比を測定することとされている。
  3. 台車枠の検査については,「施設及び車両の定期検査に関する告示」の解釈基準において,検査方法等を示した「台車枠の検査マニュアル」(以下マニュアル)が定められている。
  4. マニュアルは,1998年10月以降に複数の鉄道事業者で台車枠の亀裂が相次いで発見されたことに端を発して2001年9月に策定されたもので,重要部検査および全般検査時に台車枠の亀裂を確実に発見することを目的としている。2017年12月に東海道新幹線名古屋駅構内で発生した重大インシデントを受けて,マニュアルは改正が図られている。
  5. マニュアルでは,40mm程度の亀裂が塑性変形に至るまでに拡大するには120から150万km程度の走行が必要で,亀裂は急激には進展しないことが示されている。すなわち,重要部検査や全般検査時に亀裂を確実に発見することで,亀裂が小さいうちに処置を行えば,重大事故を防止できるとされている。
  6. マニュアルでは,亀裂を確実に発見できる方法として,磁粉探傷検査等の探傷検査を行うことを定めている。また,検査の時期は重要部検査や全般検査時を基本とし,亀裂部位や処置内容,検査項目について記録を行うこととされている。
  7. マニュアル策定にあたって行われた2000年4月8日付鉄保第55号に基づく緊急点検の結果では,亀裂が発生した部位は側はり,ばね帽,ばね座溶接部が最も多く,次いで側はり溶接部であった。マニュアルでは,個々の鉄道事業者において,これら事例のほか,個々の使用環境や台車構造等を考慮して重点検査箇所を定め,探傷検査を行うこととされている。
  8. 運輸安全委員会の事故調査報告書によると,2016年5月に東武鉄道東上本線中板橋駅構内で発生した列車脱線事故においては,本件車両で使用している台車と類似構造を有する台車の側はりに亀裂が生じていたことが確認されている。この事故を受けて,国土交通省は,2016年10月に類似構造を有する台車を使用する鉄道事業者に対し,目視等による緊急点検を指示しているが,これによる異常は報告されていない。また,側ばりの亀裂発生要因は特定に至っていない。
  9. マニュアル策定時に組織された台車枠検修検討会の分析結果によると,亀裂の発生箇所は,ほぼ溶接箇所に限定できるが,発生部位は構造により台車固有であるとされている。
  10. 改定前のマニュアルの別添5「最近の台車枠き裂発生状況」には,1990年以降に製造された台車の亀裂発生事例20例が掲載されているが,亀裂発生要因は強度検討及び評価の考慮不足によるものが最も多く,溶接接合部の溶け込み状況確認や溶接表面形状不良による応力集中除去の未実施によるものが挙げられている。