2023年11月ダイヤ改正の概要と考察

2023年11月25日施行予定の北総線ダイヤ改正については,10月24日付のプレスリリースにて概要が告知されていたところであるが,今般その詳細が公となったことから,ダイヤ改正における変更点について本稿に纏めるものである。

概要

本件ダイヤ改正は,2022年2月26日に施行されたNo.118改正ダイヤを基本として同年11月26日に施行されたNo.118-2修正ダイヤを変更するものである。先のプレスリリースやポスター等においては「ダイヤ改正」と案内されているところであるが,変更規模に鑑みると本件は前回同様「ダイヤ修正」と推察され,すなわち修正後のダイヤ番号はNo.118-3と考えられる。本稿においては「ダイヤ修正」に統一して表記する。

11月26日追記:今回施行されたダイヤについては,ダイヤ番号をNo.119と確認できたため「ダイヤ改正」であることが判明した。よって本稿における記載を「ダイヤ改正」に統一する。

過去2回のダイヤ変更においては,北総線の重要な事業基盤である千葉ニュータウン地域の高齢化や人口減少を抑制し,入居需要の喚起ひいては沿線人口の安定的な確保を目的として,区間列車の新設など新たな需要喚起策を盛り込んだダイヤが施行されてきたところである。また,先般の決算報告書内で新たに策定が発表された成長戦略「Next Hokuso」においては,昨年度に実施された運賃値下げによる効果を最大限に活用し,人口減少や輸送構造の変化に対応する戦略の柱として,輸送サービスの向上が示されている。以上の点を踏まえて実施される本件ダイヤ改正について,その概況を以下に紹介する。

車両走行キロ

今回のダイヤ改正における車両走行キロは,平日の北総線列車において364.8キロ増の42,201.6キロ,同じく土休日において912.0キロ増の34,233.6キロ,アクセス線列車は各日とも258.4キロ増の35,917.6キロとなる。したがって,北総線列車とアクセス線列車を合算した北総線区間における車両走行キロの総計は,平日において78,119.2キロ,土休日において70,151.2キロで,いずれも前回修正時のNo.118-2ダイヤから微増している。

平日土休日
北総線列車営業列車41,684.842,049.633,139.234,051.2
回送列車152.0152.0182.4182.4
小計41,836.842,201.633,321.634,233.6
アクセス線列車営業列車35,400.835,659.235,142.435,400.8
回送列車258.4258.4516.8516.8
小計35,659.235,917.635,659.235,917.6
合計77,496.078,119.268,980.870,151.2

北総線列車における車両走行キロ増加の要因は,今回も区間列車によるものだ。これまで新鎌ヶ谷発着として設定されてきた区間列車のうち,平日2往復,土休日6往復が矢切発着に延長されるためである。延長される矢切・新鎌ヶ谷間9.5キロを8両編成で運転する際の車両走行キロは76.0キロで,該区間を2往復または6往復する距離が各日の車両走行キロの増加分に相当している(ただし,平日の増加分には印西牧の原・印旛日本医大間1往復分に相当する60.8キロも含まれる)。

一方のアクセス線列車における車両走行キロの増加は,深夜時間帯において上りスカイライナー1本が増発されることによるもので,すなわち増加する258.4キロとは京成高砂・印旛日本医大間32.3キロを8両編成で運転する際の車両走行キロに等しい。

運転回数

運転回数の現改比較を下表に示す。今回のダイヤ改正における列車単位での運転回数は,総じて軽微な増減に留まっている。

平日土休日
上り普通84827777
特急5500
アクセス特急27272727
スカイライナー41424142
臨時ライナー1100
回送3466
合計161161151152
下り普通87867272
特急2200
アクセス特急27272727
スカイライナー41414141
回送2222
合計159158142142

北総線列車においては,平日の普通列車の運転回数が上下方向それぞれで▲2~1回の減となる。これは,入出庫に伴って印西牧の原を境に分割されていた2本の列車が車両運用の変更により全線通しの1本の列車となるためで,すなわち印西牧の原・印旛日本医大間に設定されていた区間列車の設定回数の減少が運転回数に反映されたものである。したがって北総線列車の実質的な運転回数に増減はないが,アクセス線列車については上りスカイライナーの増発により運転回数は1回の増となる。

新柴矢切北国
秋山
松飛
大町
東松新鎌西白
白井
小室
中央牧原医大新柴矢切北国
秋山
松飛
大町
東松新鎌西白
白井
小室
中央牧原医大

上り747475107121861148689747477109124861148690
下り777878107123861136227778080109123861136327


上り5757588599709770875757649110670977087
下り57585885107709762275764649110770976227

駅別の乗車機会については,区間列車の矢切発着化によって矢切・新鎌ヶ谷間の各駅で乗車機会に増加が生じる。また,増発される上りスカイライナーが新鎌ヶ谷停車便であることから,新鎌ヶ谷ではスカイライナーによる乗車機会の増も加わり,最も大きく乗車機会が増加する土休日上りでは7回の増を記録している。

北総線内の途中駅で種別変更する北総線列車は見られなくなる

△北総線内の途中駅で種別変更する北総線列車は見られなくなる

さらに,平日の印西牧の原・印旛日本医大間でも乗車機会が1回の増となる。平日夜間の上下列車各1本が印旛日本医大発着に延長されるもので,印西牧の原場面で22時台に増発される下り方向については,これまで31分だった時隔が約15分に改善される。また上り方向については,印旛日本医大発ながら印西牧の原まで1駅間を回送していた21時台の上り列車が全区間で営業化される。この列車は北総線内の途中駅で種別変更を行う唯一の北総線列車であり,すなわち今回の営業区間延長は北総線内の途中駅で種別変更を行う北総線列車の淘汰を意味している。

さて,コロナ禍で落ち込んだ人流は回復傾向にあるものの,動力費の高騰など様々な要因から減便を決断せざるを得ない鉄道事業者が依然として散見される中で,今回のダイヤ改正でも増発を重ねる北総鉄道の方針は特筆に値する。増発の鍵を握る区間列車は,北総線内における移動促進策として過去2回のダイヤ変更で新設されてきたところであるが,その運転区間は新鎌ヶ谷・印西牧の原間(一部で印旛日本医大間)に限られていた。すなわち,北総線内における移動促進策と位置づけられながらも直接的な効果の発現は千葉ニュータウン区間に限られ,Ⅱ期線区間や対都心輸送における輸送施策の展開には課題を残していた。今回のダイヤ改正における区間列車の矢切発着化は,近年の沿線開発によって著しく利用が増加しているⅡ期線区間にも増発の効果を広げ,北総線全体で輸送サービスの向上を図ろうとする北総鉄道の努力と捉えることができよう。しかしながら,Ⅱ期線区間に対する増発の規模感は過去2回の千葉ニュータウン区間における増発に比べれば限定的である。今後の継続的な成長には,現状の限られた経営資源を効率的に活用するとともに,需要に対する最適な輸送のあり方を戦略的に示し続ける必要があるだろう。

区間列車の運転区間延長

今回のダイヤ改正でも変更の目玉となるのは区間列車である。新鎌ヶ谷発着だった区間列車のうち平日2往復,土休日6往復について運転区間が延長され,矢切発着となる。矢切発着に延長されるのは,平日は朝9時台から10時台と18時台の各1往復,土休日は朝8時台から10時台の4往復と15時台から16時台の2往復で,千葉ニュータウンとⅡ期線および他社線沿線との間における通勤通学利用や行楽利用を念頭に置いたものと推察される。

区間列車による増発効果はいよいよⅡ期線区間にも広がることに

△区間列車による増発効果はいよいよⅡ期線区間にも広がることに

ダイヤ上における区間列車の位置づけは矢切発着化に際しても踏襲され,すなわち北総線内における普通列車の運転間隔確保に重きが置かれている。朝9時台までの上り方向における時間6本運転は矢切まで延長され,平日17時台から18時台の上り方向についても矢切まで時間5本の普通列車が確保される。いずれも千葉ニュータウンとⅡ期線および他社線沿線との間で通勤通学利用や行楽利用の多い時間帯であり,運転区間延長の効果が期待できる。

なお,かつて1990年代に北総線内で運転されていた区間列車は,新京成線直通列車の代替として設定された経緯から新鎌ヶ谷・千葉ニュータウン中央間の運転を主としていたが,これとは別に1993年4月施行のNo.103ダイヤから2000年7月施行のNo.108ダイヤまで矢切止まりの上り区間列車が運転されていたことがあった。これは当時運転されていた上り急行列車の通過駅救済を目的としたもので,平日朝のみ運転されていた。矢切止まりの区間列車といえば当時を想起させるものがあるが,今回のダイヤ改正で設定される区間列車は当時とは毛色の異なる列車である。

土休日朝の区間列車は上り普通列車の運転間隔確保に重きが置かれている

△土休日朝の区間列車は上り普通列車の運転間隔確保に重きが置かれている

区間列車の矢切発着化には制約や課題もある。今回のダイヤ改正では,土休日朝の区間列車はこれまでの上り方向の運転時刻を維持しながら矢切発着に延長される。これまで区間列車は新鎌ヶ谷での折返し時分が長く確保されていたとはいえ,それだけでは増加する所要時分を相殺するには至らず,折返しの下り区間列車の運転時刻は自ずと繰り下がることになる。したがって,土休日朝9時台から10時半の下り方向における普通列車の運転間隔は前回No.118-2ダイヤと比較して不均等になるが,現状の車両運用や設備条件では上下方向ともに運転間隔を均等化することは難しく,一方を優先するしかない。

一方で土休日日中の区間列車は下り普通列車の運転間隔確保を優先

△一方で土休日日中の区間列車は下り普通列車の運転間隔確保を優先

その一方で,土休日15時台から16時台の区間列車については,下り方向の運転時刻を維持しながら矢切発着に延長される。矢切折返し場面で上りスカイライナーのダイヤを支障しないように考慮するとともに,かつ東松戸で時間調整を図ることで,運転間隔を可能な限り均等化する工夫が認められる。いずれも現状の車両運用や設備条件を活かして最大限の利便性向上を図ろうとする努力が伺えるところで,こうした努力が実を結んで区間列車の利用が増えることを祈りたい。

車両運用の持ち方

車両所属事業者別の車両走行キロの内訳を下表に示す。区間列車の運転区間延長や車両運用の持替えによって車両走行キロに増減が生じているが,総じて前回No.118-2ダイヤからの変化は少ない。

平日土休日
営業列車回送列車営業列車回送列車営業列車回送列車営業列車回送列車
北総線列車北総車18,075.230.417,680.060.818,993.660.819,905.660.8
京成車5,624.060.85,624.060.83,931.260.83,931.260.8
都営車14,489.660.815,249.630.46,657.660.86,657.660.8
京急車3,496.00.03,496.00.03,556.80.03,556.80.0
小計41,684.8152.042,049.6152.033,139.2182.434,051.2182.4
アクセス線列車ライナー21,447.2258.421,705.6258.421,188.8516.821,447.2516.8
京成車8,785.60.08,785.60.06,201.60.06,201.60.0
都営車5,168.00.05,168.00.03,100.80.03,359.20.0
京急車0.00.00.00.04,651.20.04,392.80.0
小計35,400.8258.435,659.2258.435,142.4516.835,400.8516.8
合計77,085.6410.477,708.8410.468,281.6699.269,452.0699.2

北総所属車両の車両走行キロは平日で▲395.2キロと減少したが,土休日では912.0キロ増となる。土休日の北総線列車は北総所属車両を除いて車両走行キロに増減はなく,矢切発着に延長される区間列車6往復分の車両走行キロを北総所属車両が一手に引き受けている格好だ。一方で平日の区間列車については,矢切発着化された2往復のうち1往復が東京都所属車両による運転であり,東京都所属車両も区間列車の矢切発着化による影響を受けている。なお,北総所属車両以外による矢切行の区間列車が定期設定されるのは今回が初めてのことである。

ついに定期設定される東京都所属車両による矢切行

△ついに定期設定される東京都所属車両による矢切行

西馬込行のみだった北総特急の行先に羽田空港行が加わる

△西馬込行のみだった北総特急の行先に羽田空港行が加わる


車両運用の持替えに起因する車両走行キロの増減は,北総線列車では平日の北総所属車両と東京都所属車両に,アクセス線列車では土休日の東京都所属車両と京浜急行所属車両に見られる程度であり,全体に占める割合は大きく変化していない。したがって北総線列車とアクセス線列車をあわせた北総線区間全体における車両走行キロの内訳は,平日ではAE形(21,964.0キロ)>東京都所属車両(20,448.0キロ)>北総所属車両(17,740.8キロ)と,依然としてAE形と東京都所属車両が北総線区間で大きな存在感を示している。

車両走行キロの増減には現れないものの,前後の列車で行先が持替えられた場面もある。平日朝上り方向に5本が運転されてきた特急列車については,2001年9月施行のNo.109ダイヤにおける設定当初から一貫して全列車が西馬込行として設定されてきたが,このうち4本目が今回のダイヤ改正で羽田空港行となる。八広まで先行する上り普通列車と行先を持替えたもので,当該時間帯では前後数本にわたって車両運用や行先の持替えが行われている。

北総車における車両運用

最後に,北総所属車両の車両運用について述べる。北総所属車両における北総線内の車両走行キロは平日で減少,土休日で増加しているが,乗入各線を含めた全体でも同様の傾向にあり,平日で▲364.8キロの減,土休日で912.0キロの増となる。同時に運用される最大編成数は平日10編成,土休日9編成から増減なく,依然として13編成中3編成が予備に回る体制である。夜間滞泊の本数や箇所,時間帯別の運用状況についても変更はない。

北総所属車両の運用概況(棒ダイヤ)

△北総所属車両の運用概況(棒ダイヤ)

個々の車両運用についても大きな変更はない。とりわけ土休日ダイヤの変更点は区間列車の運転区間延長に伴う入出庫時刻の繰上げもしくは繰下げに限られ,いずれも数分単位の変更に留まっている。一方の平日ダイヤにおいては車両運用の持替えによる変更があり,これにより平日33N(2)のように区間列車のみで完結する車両運用が再び発生している。

わずか13年とはいえ北総車は様々な表情のエ急行を見せてくれた

△わずか13年とはいえ北総車は様々な表情のエ急行を見せてくれた

ところで,北総線列車の走行区間や時刻には影響しないものの,今回のダイヤ改正を機に京浜急行線内でのエ急行運転が見納めとなる。それまでの急行列車に代わって2010年5月のNo.114ダイヤ改正から延べ13年にわたり運転されてきたエ急行列車だったが,京浜急行線内の種別見直しによって姿を消す。

種別見直しによる北総線系統の列車への影響は,エ急行で運転されていた列車のほとんどが急行運転に変更される程度で,前回No.118-2ダイヤ修正のような大きな変更には至っていない。したがって今回のダイヤ改正でも日中時間帯は基本的に特急運転であり,日中と朝晩の移り変わりなど一部時間帯での快特運転も引続き設定されている。13年ぶりとなる京浜急行線内の急行運転は,当時とは異なるダイヤや車両で見ることになる。